よねっきー

エンパイア・オブ・ライトのよねっきーのレビュー・感想・評価

エンパイア・オブ・ライト(2022年製作の映画)
4.7
たしかに映画館って「光の帝国」なのかもしれない。劇場の明かりを少しずつ付けて回るオープニングや、映写技師の小難しい台詞が、ひとつひとつ説得力を持って「エンパイア・オブ・ライト」を立ち上げていく。

キャラクターひとりひとりに漂う色気が良かった。主人公2人だけじゃなく、モブキャラクターもみんな魅力的。全員が、簡単には開拓しきれない二面性を抱えているからかもしれない。人は、他者の理解し得ない部分にこそ、可能性や魅力を感じるんじゃないかと思うのです。

ヒラリーの生きづらさに思いを馳せてしまう。自分の性格について「病院で治療が必要」と言われてしまうような人々に、おれもこれまで少なからず出会ってきたから……。表情に刻まれた皺は、彼女が自分自身と付き合ってきた時間の長さを思わせる。
彼女の抱える「病んだ」二面性が明らかになる場面も、決してセンセーショナルな驚きとしては描かれていないのが誠実で好きだった。おれたちは、相手の知らない一面に、いつも少しだけ衝撃し続けているのだ。それって驚きには違いないんだけど、物語を盛り上げるツイストとは別なんだよな。生活のなかに当たり前にある衝撃、というか。

肉感のあるシーンが、静かにちゃんと挟まるのも良かった。人間はなぜか、恋愛において都合よく精神と身体の二元論を持ち出し、精神的愛を身体的愛よりも優位に立たせようとしたがるんだけど、実際そのふたつは序列も境界もなく、不可分に混ざり合っている。
身体的な愛の行為は往々にして「搾取」と見分けが付きにくかったりするわけだが、その二つが混同されることを恐れず、両方の実相をしっかり表現することにした姿勢には拍手を送りたい。

これまでサム・メンデス作品を追ってきて多少慣れちゃってる人もいるかもしれないが、やっぱロジャー・ディーキンスの撮影力ってただごとじゃねえと思うよ、おれ。007シリーズや『1917』みたいな派手な展開やサスペンスがないだけに、美しい映像世界にどっぷり浸れる時間が幸せだった。色彩のバランスは美しく、コントラスト強めの画面は陰影をくっきり切り取る。なんていうか、世界観がとても綺麗にまとまってるので、下手したら最近の実写ディズニー映画みたいなツルツルした質感の映像になりそうなものだけど、良いざらつき加減で的確に撮影してくれてる。本物だわー、この人。何が違うんだろ。

物語に詩情が溢れてるだけに、ラストを既存の詩で〆るのはどうなんだ、とはちょっと思ったけど、総じて美しい映画でした。優しく鳴るサントラも好きだ。
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