映画監督はじめ表現者・創作者のリーダーとは、権力者にならざるを得ずリスクを負うものである。自分の表現したいことのためには、人を切ったり(解雇したり)、人のことを否定したり、感情的になったり、わがままを通したりと、それらを網羅した傑作だ。
『シン・仮面ライダー』の庵野監督しかり、かっての黒澤明に演劇の蜷川幸雄などいくらでもあるだろう。また、芸能でも落語家の師匠も同様だ。
ケイト・ブランシェットは凄まじい演技で、「マエストロ」と称される主人公を再現する。出ずっぱりで、長台詞はあたりまえ、走ったり殴ったり、アクションシーンもこなしている。
激しい感情を、ただ激しく演じる例は多々あったが、こちらは強弱も表現していてすばらしい。
そして、この映画の多様な意味と「わかりにくさ」が評価できる。予想通りのエンターテインメント作品は、いくらでもある。ちょうどトム・クルーズの予告編が上映されていたが、この映画は違う。
この難しさ、説明のなさ、解釈の多様性も、監督はじめスタッフの狙いと強い意志の表れなのだろう。誰にも感情移入できない構造も。
当たり前だが、いくらかの指摘のとおり、(主人公はレズビアンだが)男性性批判でもある。こういう深さもすばらしい。