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TAR/ターのSUのネタバレレビュー・内容・結末

TAR/ター(2022年製作の映画)
3.9

このレビューはネタバレを含みます

ターが冒頭でレコードを蹴るが、ああこいつ"音楽好きじゃねーな"とまず思った。能力主義、高慢、自己中心でひたすら高みを目指し、子供にも容赦しない大人気なさ、性別は関係ないと言いながら男に寄せた喋り方や変名までするター自身が女である事を最も意識している様に見えたりなど諸々嫌な奴でしかなく結局はしっぺ返しを喰らう事になる。
その後実家のテレビで「音楽を理解するのに理論は必要ない。音楽は言葉で説明できない感情を伝えることができる」旨を聞くことで、権力を求め行使し、他者をねじ伏せ続ける内に忘れていた幼きころの想いや音楽への愛を追憶し気付くことができた。本当は"音楽が大好き"なのだ。
序盤のインタビューや生徒をこてんぱんにする流麗な長台詞、終盤指揮台のカプランに一直線にかちこむ時の悲哀MAXの表情などケイト・ブランシェットの猛然たる演技はもはや彼女に出来ないことなどありはしないと思わせる程鬼気迫る。
中盤以降クリスタの幻影がターを狼狽疲弊させるが、この幻影の差し込まれ方の隠密さがスリラーとして心地良い恐怖をいただけるのですき。繰り返し観てこの幻影を追いかけたくなる。
それにしても音楽の価値を測る事において人格を含む必要はあるのか。能力主義でいいしむしろ彼女の様な人間こそが芸術の真髄に辿り着くのではないか。どいつもこいつもうるせーよ音だけ気にしてろと思う時もあった。テレビの言葉の様に音楽は理屈ではなく存在自体が高貴ですらありそもそも優劣をつける必要はないのだから聴く聴かせる権利と土俵、音楽理論や古典に囚われたり、はたまた才能の有無などにより無駄にがんじがらめになっている世のシステムは確かに必然必要な結果を生むわけだが、片やそんな構造自体が歪に思えくる。
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