生まれつき両耳が聞こえないケイコは
長年続く小さなボクシングジムで日々鍛錬を重ねている
嘘がつけなくて真っ直ぐだから
まわりからは悩みがないように思われて
強い人のように見られてしまう。
決して自分の気持ちを表に出そうとしないけれど心の中では迷っている
日々の練習に気持ちがついていかなくなってしまうのだ
ぶつかった相手から謝罪を求められる
コンビニでカードがあるかを問いかけられる
…ケイコには聞こえていない
それと同じように、ケイコと友達との手話のシーンは彼女たちの世界
その場にいる人と同じく私たちも彼女たちの会話がわからないのだ
正面に向き合ってこそ分かる手話とボクシング
だけど正面から見ているからといってもその人のすべてがわかるわけじゃない
見えない部分だってある
監督の意図が反映されていたように感じた
劇伴がない分、研ぎ澄まされて環境音が際立つ
息遣い、ミット打ちの音
16mmフィルムを通してケイコの生き方を知ることができる
アナログだからこそ伝わるやさしさや奥ゆかしさ
悩んで、悩み抜いたケイコだけど
きっとまたボクシングと向き合うはず。
自分本位だった気持ちから「誰かのため」に変わる瞬間、もっと強くなれるはずだから
東京国際映画祭にて。
角川シネマの椅子が好き、に落ち着く。