り

ケイコ 目を澄ませてのりのネタバレレビュー・内容・結末

ケイコ 目を澄ませて(2022年製作の映画)
4.3

このレビューはネタバレを含みます

目を澄ませるのは私だった。私は手話ができないから、字幕がなければ理解できない。ふと一瞬気を抜いたとき、字幕を見逃してしまった。同じものではないけれど、じっと目を澄ませていないといけないとはこういうことかと、映画の中で体感した。それからケイコの感情表現はあまり多くは、大きくはないし、それを見逃さないようにという意味でもじっと見ていた。声に出す会話が少なく、ボクシングジムのミットを打つ規則的な音や、ケイコが住む北千住あたりの街並みの生活音が印象的に響く。同居する弟のギターの音色が唯一のBGMで、自然で素敵だった。16㍉フィルムで撮影したということだけれど、下町の雰囲気と古いジム、そこにいる人々の色があいまって、ノスタルジックで切なくて私もあの土手を走り出したくなってしまった。静かで、少し閉塞感があって苦しくて、曇り空みたいで、誰かの人生のひとときを覗いたような、その出会いの衝撃が心に残るような、こんな映画体験は初めてだった。
り