小笠原恵子さんの自伝を原案に、聴覚障害を持つプロボクサーの姿を描いた作品。
いつも明るくてよく喋る賑やかなイメージの岸井ゆきのさんの、動きと表情だけの演技がよかった。
エンドロールで初めて音楽が一切流れていなかったことに気付いた。
唯一、コーチの奥さんがケイコの日記を読んでいるシーンのバックに弟の弾くギターのメロディーが流れていただけ。
挿入歌や主題歌のようなものが一切ない。
街の喧騒や車が走る音、足音や息づかい、ボクシングジムの縄跳びやミット打ちの音。そんないろんな音を聞かせて際立たせることによって、無音の世界を想像させるのかもしれない。
何か驚くような展開や特別なストーリーがあるわけでもなく、ケイコの日常が淡々と流れていく。
ケイコはボクサーなのだが、スポーツ根性ものの映画とも違う。
聾者の友人たちとのランチのシーンは、手話での会話も字幕が入らない。
そこから私たちに様々なことを想像させる映画なのだろう。
目を澄ませて、は私たちにも投げかけられた言葉なのかもしれないと思った。