バリカタ

君を想い、バスに乗るのバリカタのレビュー・感想・評価

君を想い、バスに乗る(2021年製作の映画)
4.5
心に沁み入る傑作です。

トムにとってはバスで横断するその道のりは人生の出来事や思い出が凝縮されたものなのでしょうね。旅自体が人生そのものってよく言われますが、本作を見たら「あぁ、電車よりバスの方が人生っぽいかな?」って思ってしまいました。それは本作の旅途中のエピソード作りが巧みだからそう思ってしまったのかもしれません。まさに喜怒哀楽がたくさん。晴れの日もあれば雨の日も。急な雷雨もあるし。

トムが今住む場所からスタートし目指した場所とその意味が物語が進むにつれ徐々に明らかになってきます。彼が真摯に歩んできた人生をなぞるように、人生で育まれた彼の人格を描きながら。ありふれた人生かもしれないが、深いシワに刻まれた喜びも悲しみも全てかけがえのない人生の証であり思い出。トムにとって愛おしいものなのです。老体に鞭打ちながら愛おしいものに全てを注ぐトムの姿を旅の途中で出会い方々とのエピソードをユーモラスかつハートフルに描き、かつ妙な感動ポルノにならずにとっても爽やかな後味を醸し出してくれます。「さぁ、泣きどころですよ!」演出が全くなく、一人の老人の歩んできた人生を横に寄り添いながら描いているこのスタンスがとっても心地よく、心に染み込んでくるのです。
(ゴール到着シーンは秀逸です。それを描きたいんじゃないんだよ!って製作陣が言っている声が聞こえてきそうな展開です。邦画ではこうはいかないだろうなぁ(笑))

あぁ、なんと素敵な人生なんだろう。こんな人生を過ごしてみたい。愛情に溢れる世界は素晴らしい。そんな気持ちでいっぱいになった作品でした。