スズキ

小さき麦の花のスズキのレビュー・感想・評価

小さき麦の花(2022年製作の映画)
3.8
テーマとしては、清貧とか夫婦愛になるのかな。

中盤で主人公が幸せを噛み締めるので、後半の展開が予測できて身構えていたけど、それでも辛かった。

一方で、主人公夫婦の女性の方が(障害を抱えてるとはいえ)1人では生活できないレベルとして描かれていることは疑問にも感じた。ただでさえ保守的な立ち位置にも思える作品なので、作り手側の意識が伝わってくるというか。今これをやるなら、ここは男女逆転して欲しかったかな。中国製作だし、いろいろ勘繰ってしまう。

あと貧しくコツコツ生きるのは美しいみたいな考え方って搾取に繋がりやすく、作中でも主人公夫婦は搾取されまくってる様子が繰り返し描かれる。これって置かれた場所で咲きなさいみたいに、権力者側からは都合がいいんだけど、その立ち位置を賛美してるみたいであまり乗れなかった。個人的にはあまり美しい生き方とは思わない。まあ中国だし製作者の本当の意図まではわからないのどけど。

もちろん厄介者として扱われていた2人が連帯し居場所を作ること自体は美しい話なので、それが地域や、国の都合や、周囲の価値観のせいで、自分達の行きたいように生きれない姿は悲劇なんだけど、もう充分辛い思いをしてる2人を、そこまで悲惨にせずに幸せにしてあげて欲しかったという気持ちも。散々虐げられてるんだから、ハッピーエンドでも誰も怒らないと思うよ。

あと、ロバを最後に砂漠に放つシーンがあるけど、あれはええのか?という疑問も。自力で生きられるのかな。その辺は人と重ねてるんだろうけど。

というところは気になりつつも、ところどころで、長めのワンカットが入るシーンの美しさは素晴らしかった。
特に、妻が夫の帰りを待って湯を用意していたシーン。まだそこまで親密な中ではない二人の間で、照明と湯の温度が相まって凄くグッときた。

あと麦を狩るシーンで夫が怒鳴りつけるのも、良い行いではないけど印象に残る。夫が聖人君子ではないことが伝わるシーンだから。同じ人間だけど、普段は優しく生きれてる人。

日本では絶対に成立しないであろう、きれいではないビジュアルの2人を主演にして映画を成立させているのだから、その辺りもすごい。

あと舞台となった場所はよくわからないけ
ど、砂漠とかもあって土が多く、キアロスタミ作品を思い出した。地理的に近いのかなとか思って調べたら、イランと中国は隣接はしてなかった。中東の景色ではあるのかな。

他の方のレビュー見て、あれ服毒自殺らしいと知ったけど、果たして映画だけ見てそれに気づく人何人くらいいるんだろ。
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