いの

息子のまなざしのいののネタバレレビュー・内容・結末

息子のまなざし(2002年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます



冒頭から、カメラは中年男性のすぐ後方に位置し、執拗に(まるでストーカーのように)中年男性を追い回す。レスリング選手のような太いベルト。衣服についた木くず。内出血した爪。息苦しい。中年男性が動けば、カメラはその動きを後ろから追っかける。不穏な気持ち、ざらついた気持ちにさせられる。いっときも落ち着いていられないかのように、せわしなく動く中年男性。


冒頭だけかと思いきや、カメラはずっと、ほぼ後ろから、中年男性を追いかけ回す。そして、少しの会話から、表情から、状況が、心情が、ゆっくりと見えてくる。中年男性の名はオリヴィエ。職業訓練校の木工の先生。少年院帰りの少年が、新しく入ってくる。彼は、その少年を自分のクラスに入れるという。


オリヴィエは、少年の名前を呼ばないし、呼ぶことができない。
オリヴィエは、少年から差し出された手を、握ることができない。


元妻との駐車場でのやりとりのあたりから、もうすごすぎて。「わからない」発言の重み。


オリヴィエが少年の背後に立つとハラハラした。突然、憎悪が湧きだしてくるのではないかと。憎悪はきっと、自分でも気づかないうちに、自分の意思に反してでも、突然マグマのように、意識下から、腹の奥底から、湧き上がってくるものだと思うから。


どうか悲劇が起きませんように、と願っていた。負の連鎖となりませんように。もうこれ以上更なる悲劇が起きませんように。


そしてこれはひょっとしたら、ホラーやサスペンスなのではないかと私は疑う。疑ってから、気づく。猜疑心を抱いているのは、私自身であることに。


中年男性オリヴィエは、そんな表層的なところを生きているわけではないのだ。そのことに、ハッとする。気づかざるを得ない。魂が揺さぶられる。冴えない中年男性が、誰よりも崇高な存在に見えてくる。


そしてラスト。もう後方から、ではない。カメラは真正面から2人をとらえる。







*戦争や、内紛や、事件。起きてはならないし、起きてほしくもない。でも、戦争や、内紛や、事件は、至るところで起きている。あなたは赦すことができるのか。あなたは、どうやって自分の心に折り合いをつけていくのか。この映画は、観る者に、静かに、深く、そっと問いかける。


*少年フランシスは、このあと、自らの罪と向き合えるようになるだろう。どんなに辛くても、きっと向き合える。横には伴走者がいる。


*世間は起きたことをどんどん忘れていく。いとも簡単に風化させてしまう。そんななかで、皮肉なことに、被害者と加害者だけは、運命共同体的に、いつまでもそこに留まり続け、ある種の繋がり(という言葉は妥当とは言えないが)を持ち始めるのではないかと思う。それを何と称したら良いのか、私にはわからない。
孤独な心が響き合う。
いの

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