ヒノモト

PLAN 75のヒノモトのネタバレレビュー・内容・結末

PLAN 75(2022年製作の映画)
3.6

このレビューはネタバレを含みます

オムニバス映画「十年 Ten Yers Japan」の一編だった「PLAN75」を独立した長編映画として再構築された作品。

短編映画の「PLAN75」は、概要は同じなんですが、主に最終施設での物語で、短編映画だからこそ、全体像の見えない不気味さ、カーテンで簡易的に区切られた空間での秘匿性があって、わかりにくさとディストピア感はそれなりにありました。

今回の長編版では、ある事件の影響で利便性を優先とした社会的弱者としての高齢者の切り捨て制度の対象となりうる倍賞千恵子さん演じるミチの境遇が中心として描かれるのですが、群像劇になっていて市役所で働くヒロム、サポートセンターの瑶子、フィリピンから来日して幼子の手術費用を捻出するためにとある作業員となるマリアのそれぞれの境遇が多角的に描かれています。

ただ、映画的省略、死を見せないことが全体的に貫かれていて、観客の想像力に委ねるつくりになっているのですが、そういうコンセプトはカンヌ映画祭向きではあるのですが、今作のメインターゲットである倍賞千恵子さんを目的に来られたシニア世代の方々からすると、ポイントが散漫になっていて、それぞれの人物の行く末もはっきりと描かれず、プロセスを省略することで生まれるリアリティから外れてしまう表現もあって、説明不足からくるわかりにくさが目立つ結果になってしまいました。

ここから先、少しネタバレすることを許してください。

特に良くなかったのは終盤、磯村勇斗さん演じるヒロムが叔父を送り届けたPLAN75の最終施設に戻る描写があるのですが、国として重要な施設であるはずなのに、ただの市役所職員設定のヒロムは簡単に潜入して、叔父さんを救い出す訳です。

ここに潜入、脱出のプロセスがほとんど省略されていて、警備体制とかセキュリティとかどうやって突破したのか、何か裏にあるのかは全く描かれないので、ここで一気に嘘くさく感じてしまいました。

PLAN75自体は、物語の設定として許容できるし、それまで90分くらいかけてそれなりに説得力のある怖い制度として描かれていて申し分ないのですが、ラストにつながるこの場面は、どのような行動原理なのかを省略せずに描かないと、フィクションとして何でもありの世界に見えてしまって、映画全体の説得力が低下してしまいます。


短編映画ならあえて見せないことの恐怖が成立するのですが、長編では観客に納得させる許容性はもう少しあったほうが、ラストシーンはもっと生きるもの見えたと思いました。

もちろん、倍賞千恵子さんの所作、佇まいは素晴らしく、歌声も素敵です。
前述した他のサブ主人公的な登場人物もそれぞれドラマチックですし、PLAN75への関わり方、感じ方の違いも描かれているのですが、特にヒロムの行動原理はもう少し時間を割いてでも増やすべきだったと思います。

映画全体としては今まさに直面している大きな問題に対して、政府が都合の良いように憲法を改正したり起こりえる事態に対する警鐘として訴えるところはわかるし、ファーストシーンを含めて過去の事件を想起させる描写もあって、色々メッセージが隠れているのも理解できますが、どこを見せてどこを見せないかという点においては、長編映画初監督作品ということで、もう少し脚本の吟味が必要だったかと思いました。
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