ヒノモト

関心領域のヒノモトのネタバレレビュー・内容・結末

関心領域(2023年製作の映画)
4.9

このレビューはネタバレを含みます

『アンダー・ザ・スキン 種の捕食』のジョナサン・グレイザー監督監督最新作。
第76回カンヌ国際映画祭でグランプリ受賞作。

1945年、大量のユダヤ人を収容、虐殺を行ったの隣の敷地に暮らす家族の生活を描く作品。

通常撮影以外に小型カメラを30台設置し、自然光のみで撮影された、家族観察リアリティーショーのような趣きで、映像だけ観ていると平凡な家族映画に見えてしまいがちなのですが、真っ暗な中の音楽とノイズから始まるように、音に注目していくと、銃声や叫び声、そして中心とあるゴーっという音の正体が、シーンとしてある黒い煙や川に流れる骨などによって、焼却炉の音であることに気づかされると、この家族が昼夜問わず、聞こえている隣の収容所からの恐ろしい音に、不寛容のまま暮らしていることの恐ろしさを体感する映画となっている構造に心がざわめきます。

物語の中で、アウシュビッツ収容所内部のシーンは一切なく、音と物語の背景から想像するしかないですが、その場所の生活に固執する母親の姿や、収容されたユダヤ人から剥ぎ取った衣服などを選ぶ姿など、植民地的な上級国民思想が現れていて、気づきの多い内容ですが、直接描写がないために気づかないと退屈な映画と勘違いする可能性もあります。



ここから先、終盤のネタバレを含む感想となります。
今作の主人公である家族の父親ルドルフ・ヘスは、実際のアウシュビッツ収容所の所長を務めた人物で、終盤のその任を任された後、階段の踊り場で吐き気をもようします。

この後、何かに気づいたようにする仕草の後、映像が突然切り替わり、現代のアウシュビッツ収容所の跡地を清掃する人たちを映す、ドキュメンタリー映像となるこの場面に大変感銘を受けました。

当時の主人公と現代の戦後の光景が繋がる未来における大いなる罪を累々と見せられたその瞬間に、フィクションではないことの重み、観客としての我々の関心領域(無関心と関心の間にあるもの)その線引きであるとも取れる、ここからのラストシーンに、単なるナチス映画や戦争を題材とした映画を娯楽として観るという行為そのものを否定、または思考する映画となっていく作品性の強さに驚かされました。

前述したように気づかないと退屈な映画に見えてしまうところもあり、関心を持ち続ける事こそが、投げかけられたテーマであること、冷ややかな観察映画は人を選びますが、充分にオススメできます。
できれば、音響の良い映画館で観るとよりベターです。
ヒノモト

ヒノモト