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PLAN 75のBATIのレビュー・感想・評価

PLAN 75(2022年製作の映画)
4.6
いつか観ようと思いつつ公開されてもう一年半だ。早い...。このくらいのルックの邦画が毎月観れるといいな...。とにかく話も撮り方も真摯。真冬に観るのにぴったりの薄ら寒いディストピアの、でもそう遠い先ではない私たちの国に起きうる物語。plan75のロゴデザインのマイナンバーそのままなポップな気持ち悪さは宣伝CMからコールセンターまで徹底してローコストかつリアル。殆ど予言であり、なおかつ現在50歳で80前後の両親がいる私は寒々とした心のままに映画を観ていた。

倍賞千恵子のベースメイクくらいな顔のアップを撮らせることが逃げない姿勢(それはラストシーンのシルエットもそうだ)、よたよたと歩く姿。それを見せることすら役者としての矜持のようだった。監督脚本の早川千恵はほぼ国に対する絶望と怒りすら持ちながらメッセージ台詞、心情描写台詞もなく時代に流されていくだけの人々を映す。これが未来だと。そこにニヒリズムはない。人間がただ長く生きることさえ罪悪に感じるようになった時にどうなるのか。少しだけ不満言うならこれplan75で雇用される側の就職難とか給料とかも描いて欲しかった。ステファニー・アリアンの事情しか明かされなかったから、そこだけ残念。

冒頭の老人ホームでのテロから若者の生活の貧窮は見てとれるけれど、政府関係の仕事だと金がいいだけでなく税金免除があるとか。あのplan75関連の仕事も学歴は高関係なしに働けそうだけど、最低大卒じゃないといけないとか。そこまで描こうとするとテーマがボケてしまいそうだけど。あと、plan75受け入れると10万円もらえるって、これコロナ一年目の定額給付金と同額ですね。その辺もリアルかつ世相を反映していた。

しかし観た後も余韻が数日残ってキツかった(良い映画です。褒めてる)。掃き出されるようにパートを70代女性たちが「おつかれさまでした。」って送り出されるところ。公園のベンチをいかにホームレスが横になれないように設計しているかのリサーチ。外堀から老人たちに「死んだ方が楽ですよ。」と社会の空気どころか国が詰め寄っている。「若者と国のために死んで。」は確実に私が70代になる頃に起きていそうで背筋が凍った。

わたしはこの映画のラストが夕日で終わることに意味があり、この国あるいは時代の斜陽を死ぬまでは観続けてやるぞという矜持だと思っている。
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