BATI

関心領域のBATIのレビュー・感想・評価

関心領域(2023年製作の映画)
4.4
「関心領域」、「サウルの息子」とコインの裏表のような作品だった。それは虐殺される側と虐殺する側の反転という意味だけではない。ここで描かれるルドルフ・ヘスとその一家を狂人や悪魔と呼ぶのは容易いが、国家、政治、システムの中で生きる人間がその脈打つシリンダーとなった時、それは「仕事」および「生活」となる。民族浄化のエンジンとして生き、そこに根をはって暮らす時。最早アウシュビッツそのものが糧及び利権となった時、人間はそれを欲し、手放し難い財産となる。そうなった時銃声や悲鳴は環境音でしかなくなり、幾千幾万の人間が燃やされる煙と灰は「日常」、「原風景」となる。人は狂うのではない。「システム」となる。それが文明であり、生活。関心は生活を営んでいくこと。

家政婦として従事する「現地人」、世話をさせられるゾンダーコマンド。情婦としてあてがわされられる女。アウシュビッツにおいて搾取と利権、権力勾配が存在していたことを描きつつ、燃やされて遺灰となり川に流され、土に蒔かれ、空に消えていった幾千万の命をなかったことにしないぞという終盤の映像が何よりも悍ましく、刮目させられた。

劇場を出た後、街並みの喧騒が悲鳴や銃声に聴こえてくる。ナチスの批判だけではなく、社会とシステムの批判にもなっており、「ヒトラーのための虐殺会議」と縦の線が揃った歴史映画かつ戦争映画だった。「サウルの息子」もそうだけどこの三作はシステムと労働という批評にリーチできていて、単なる悪の所業という0か100かの歴史批判に陥っていないのは凄いと思う。
BATI

BATI