りゅう

胸騒ぎのりゅうのレビュー・感想・評価

胸騒ぎ(2022年製作の映画)
2.8
殺人鬼の描写は真に迫ったものがある。
効果音、BGMもあいまり、視聴者を不安にさせたり、イライラさせてくる。
しかし、主人公側がさすがに馬鹿に見えるし、ストーリーとしても広がりがなかったのは残念。
殺人鬼の目的は謎のままなのは良いが、
もう少し考える余地がある素材が投入されると、彼らの正体を想像して楽しんだりできるのだが。

◯解像度、ホラー映画として
ホラー小説家、平山夢明の話に
「殺人鬼は人間としての解像度が荒い」
「怪しい人にあったときに覚える違和感は大抵正しい」
というものがある。
今作はそういう意味では、リアリティのある殺人鬼描写である。
現実には「羊たちの沈黙」のレクター博士のようなカリスマ的なサイコパスは、めったにいないのだ。

本作の殺人鬼夫婦は雑も雑。
主人公家族を不愉快にさせる行動を繰り返す。(故意なのかどうかは分からないが)
犯人としては獲物を安心させたところを狙うほうが成功しやすそうである。
しかしながら、本作の殺人鬼はそうではない。
雑な行動により何度も主人公たちを不快にさせる。
もちろん、これらの理由により家族たちは犯人たちのもとから去ろうとするタイミングが訪れる。
しかし、何らかの理由により犯人たちのもとに居残り続ける。
この流れが映画内の時間として長いため、少し飽きる。
また、馬鹿な人間が馬鹿な行動のために危険な目に合う映画は飽き飽きしているので、ここらへんは残念だった。

◯“子供”という記号
2つの家族同士が仲良く慣れたのは互いに子供がいたことも大きい。
被害者家族が、なんだかんだ相手を信用したのは子供がいるからだろう。
障害を抱えた子供を育てている親なんだから、それほど悪い人ではないはず、という思い込みである。
舌を切り落とされた子供は、都合の悪いことを喋れないようにすること、障害者を育てる親を演出するという一石二鳥のアイディアなのだ。

◯自家中毒
相手に(恐らく気づかないうちに)ストレスを与える殺人鬼夫婦。
被害者がストレスを抱えることに対して、実は自分たち殺人鬼もストレスを覚えている。
実はストレスを与え、ストレスを感じる自分たちが好きなのではないか。
そして感じたストレスがあそこまでの凶行を行わせているのではないか。
ラストの「お前らが子供を差し出した」というセリフ、石打による死刑は明らかに“罪人を罰する態度”である。


◯テンポ
遅い。
本格的に大変な事件が始まる(遺体が発見される)まで、1時間。
そこまで時間がかかるので、退屈だし、主人公たちがのんびりしすぎているように感じる。

◯音
音が印象的に使用される。
視覚は見なければ良い、嗅覚は映画では伝わらない。しかし、音は否応なしに人を襲い、不快にさせる。

不安をあおるBGM。
うるさい車の音楽。
つけっぱなしのテレビ。
水道から滴る水。
ドアを鳴らす風。
歯磨き。小便。

ありとあらゆる音が人を不安にさせる映画である。

◯腑に落ちない
怪しい家族は少年を殺したとき、何故テレビをつけっぱなしにしていたのか。
そもそも、彼らは何を目的に人殺しを続けているのか。

◯ラスト
裸にされ、石で叩き殺される夫婦。
何か、宗教画のような構図である。
エンドロールも宗教画のようである。

聖書のレビ記には異教の神、モレクに子供を捧げる罪に対する罰は石打ち刑であると書かれているらしい。
https://www.cinra.net/article/202405-speaknoevil_imgwyk

◯ファニーゲーム
上記のインタビューを読むと本作の監督はハネケ、トリアーが好きらしい。
ちょうどハネケの「ファニーゲーム」と逆の構造の映画である。
ファニーゲームは、家に殺人鬼が来る。
本作では殺人鬼の家に行く。
りゅう

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