アキ

胸騒ぎのアキのレビュー・感想・評価

胸騒ぎ(2022年製作の映画)
5.0
思えば幾つかの違和を夫婦が感じた時点で、適切な対処(はしているのだが…)を徹底すべきだった。
そこをなし崩し的にうやむやにした時点でラストの胸糞に至る道筋は決定的となった。
いみじくもラストのアレの前に●が冷たくつぶやいた内容が鑑賞者の身体全域に猛毒の痺れをもたらす。

この監督さんが反則技をおかしているのは確かだ。
あの●の●を●したことは表現手段としては極めて稚拙であるといわざるをえない。
しかし、当方がこの作品に満点をつけたのはあの1点だけでもってこのタイトル全体を蔑ろにするのは、監督のストーリーテリングの巧みさと比肩するにフェアではないと感じたからだ。

例えば風呂場のシーン。
ある意味ではなんて事はない局面ではあるが、それまでの違和の連続で鑑賞者の視界は正常ではなくなり、あらゆる刺激が邪なものに聞こえ察知される。それが最高点に達した瞬間を見計らって繰り出す監督のキレのある表現。歯をブラシで擦るノイズで肝を冷やしたのは僕の映画鑑賞史上初めての経験ではなかったか。

つまるところ、劇中の夫婦にとっても我々鑑賞者にとっても、両家夫婦の発話や行動はある一定のポイントまでは単なるちょっとしたズレであったのだろう。ところがそのズレが積み重なると、人の心はたわみ、視界は陰りを帯びはじめる。
そしてたわんだ視力は人の余分な悪意を掬い取り、容易に恐怖を惹起させるのだ。
人はこれを防衛本能と称する。

この監督が巧みなのはこの過剰とも呼べる防衛反応を表現の一つとして
鑑賞者に恐怖を喚起させる術とした点だろう。冷静になって考えてみればどうとゆうことのない刺激にも過剰なほどに恐れる。

劇中の夫婦もその本能に踊らされた慣れの果てだ。適切に対処すべきだったものが、理性と対峙させたことでますます混乱に陥り、やがて抜け出せない蟻地獄のように魔の巣窟に回帰する。
ラスト、事態は最悪な結末を迎える。
その結部は先にも述べたとおりだ。
禁じ手ではある。しかし僕は止む無しとみた。

最後に●が告げる。


「おまえたちが差し出したんだ」
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