アキ

ボーはおそれているのアキのレビュー・感想・評価

ボーはおそれている(2023年製作の映画)
2.2
素直につまらないとは評しにくい作風だが、あえて言わせてもらうと金かえして。これが2時間ならまだ付き合えたが3時間となると付き合いきれない。これから鑑賞される方は観るというよりはアリアスターの世界にしょうがなく付き合ってやるという意識で観た方がいい。過剰な期待は厳禁で展開としては天井右斜め上な筋道である。

むろんのこと作家性の強い作品はあって然るべきで、当方はまだ未見だがテレンスマリックあたりの自己満足フィルムが割合受けがいいのは、何かしらその作中に意義やら指針やらを見出せるからなんだろう。その点、本作は我が強くて、いささか悪ふざけがすぎる。正味3時間の中で地に足ついた展開を見せた部分はほとんど皆無といっていいのではないか。

メインであれ終始おいけぼりを余儀なくされ、解釈を施そうにも、展開がスピーディーなのと、底に流れる不安を煽るBGMが鑑賞者の思考をかどわかす。とはいえ一定の雰囲気づくりはできてる思うし、作品全体の強度もあるが、残念なことに肝心の展開のさせ方が、セクションごとに分けられたロードムービータイプ(個人的には一番シンドイ)、大きな背骨が1本ドスンと屹立する中、周囲には小さなエピの串刺し構成、その串刺しの団子が面白ければよいのだが、本作は分かりにくい上、アリアスターの我も強いので団子のバランスが極めて不細工である。実際のところ、もはや見てらんない。というかほんとに内容ワカンナイ。表現における容赦ないニュアンスはアリアスターらしさを感じられもしたが、背骨の輪郭がぼやけているから、必然各種のエピも際立たず、そんな状態だから1時間過ぎ辺りでしんどくなる鑑賞者続発な気はしないでもないよね。
ましてや「ミッドサマー」「ヘレディタリー」で世界全土の肝を冷やしたアリアスターである。その期待とは随分かけ離れた作品構成に少なからず2時間過ぎたあたりで付き合いきれずとうとうハコからも退出される方が出てくるやもしれない。

ちなみに本作決してホラーではない。ホラー要素はあるがどちらかというとコメディタッチなダークファンタジーwithボーの自分探し、それに加えて作家性の強さと解釈を求める抽象性と、そうしたカテゴリーを好む方にとっては3時間耐えきれるが、骨まで冷えるエンタメ本格ホラーをお望みの方は全然作風が異なるので観るのを辞めたほうがいいかもしれない。率直に言ってお金と時間の無駄になる可能性は確率的には75%を超えている作品だということはここに添えておく。

で、容赦のない部分をアリアスターらしさと先に書いたが、ゆーてそれほどでもない。別段例えばブラックファンタジーの雄であるギレルモ・デル・トロにこの作品を任せたとてこの作以上のものは余裕で創れるだろうし、我の強い話の筋も、幾分マイルドに、しかしながら監督の色は混ぜ込んでのバランスのよろしゅうエンタメをきっと提供してくれてはいただろう。言うなれば本作を通してまずもってアリアスターであるべき必然性が見つからんのが何よりファンとしては痛恨であった。

最後にアリアスターに伝えたいことがある。
当方ゼロ年代以降では「ヘレディタリー」「ミッドサマー」がホラー界隈では同率首位に上がるほどに大好きな作品で、それはきっと当方だけではなしに、世界中至るところで、私と同様の感慨を持っている方は多数おられるだろうと。で、彼の最新作が本日封切されるということで、胸のドキドキが止まらず、止まらない衝動を持て余した挙句、上記2作品を事前に見たうえで、3作目の本作に挑んだシネフィルも多数にのぼるだろうと。そうしたシネフィルの期待を裏切るかのような勝手気ままな、、とまでは言わまいが、己のやりたいように我がままを表現として作品に込めた本作は少なからずアリアスターの大ファンである当方からしてみても実に見るに堪えない代物であった。表現者として遊びを入れたい気持ちも分かるが、とりあえずのとこ、観客から現に求められているモノを素直に実直に創っていこうよ。今はまだそういうフェーズだと思うんだよね。次回はぜひともよろしくお願いいたします。
アキ

アキ