よしまる

ザ・ビートルズ Get Back:ルーフトップ・コンサートのよしまるのレビュー・感想・評価

4.7
 本作は、Disney+で配信中の「GET BACK」3部作合計8時間弱という長尺のうち、第1部冒頭のビートルズの歴史を駆け足で振り返るダイジェスト映像と、第3部のラストライブだけを抜き取ってIMAXスクリーン限定で公開するという企画もの。フィル友のみぃ猫さんに教えていただき、万難を排して鑑賞することが出来た。 
 「行ってこーい!」と激励してくれたみぃ猫さんに感謝。ありがと。

 そのみぃ猫さんも書かれていたけれど、実はこの冒頭のダイジェストがめちゃくちゃ出来が良くて感涙もの。思いがけず誤解からアンチを産み、クリエイターとしての才能も相まって生のライブから撤退、うちへうちへと引き篭もっていく彼らが「ゲットバックセッション」へと至る過程がわかりやすく描かれていて、暗澹たる思いに胸がギューっとなる。

 ただ、それも束の間。なぜなら配信の「ゲットバック」を観たボクらは、この時の彼らが憎しみあい傷つけあってばかりいたわけではないことをもう知っている。例え当人たちにとって地獄のような季節だったとしても、彼らを嫌いになる理由はもう見つけられないのだ。

 だから冒頭のダイジェストの後、ジョージハリスンの脱退やビリープレストンの加入などの経緯は丸ごとすっ飛ばして、いきなり「ルーフトップコンサート」本番へとなだれ込む構成が嬉しかった。

 気温2度と言われる極寒の中にあって、「さあ、演るぞ!」という不敵な笑み、そこから繰り広げられる圧倒的なパフォーマンス。彼らがいかに優れたミュージシャンで、そしてライブバンドであったかをこれでもかと思い知らされる。「つらいー」「指動かねー」とぼやきながらもあんな演奏、しかも個々のプレイだけではなくアンサンブルの完璧さも当然すごい。

 ボクごときがこれ以上書いても説得力も語彙力もなくて恥ずかしいんだけれど、こう感じたのも「あえてIMAX限定で」公開してくれたからこそ。一緒に屋上の隅にいるかのような臨場感溢れる音響、スプリットスクリーンを大胆に取り入れたことも、この環境でこそ感じられた。
 帰ってからすぐに配信のほうでもまた観てしまったけれど、やはりスマホやパソコンで観ていても同じ興奮は味わえなかった。当たり前だ。

 しかし逆に、映画としてのクオリティにまで高めながらこのドキュメントを製作したピータージャクソンはほんとに偉大。

 警察に止められてコンサートを終えた後もレコーディングを続ける彼ら、演奏したテイクを聴きながらあれこれ言い合うのも、この先の展開を予想するのも何もかもが愛おしい。

 最後の主役はやっぱりポール。ロングアンドワインディングロードやレットイットビーの演奏には胸が震えた。これらのレコーディングは一旦お蔵入りし、ビートルズはアビーロードセッションへと移行する。

 グリンジョーンズが手がけたゲットバックセッションは、1年後、フィルスペスターによって「レットイットビー」として生まれ変わる。その賛否や内幕は書き出すと止まらないので端折るとして、過剰な装飾を施される前の、名曲が生まれゆく瞬間を捉えた映像に泣けないはずもなく。

 そしてそんな余計な詮索さえも一切受け付けないビートルズのプレイ。真剣な眼差しも、おちゃらけも、どちらもが彼らのありのままの姿であり、この若さ、人間くささこそが愛された理由なのだと知ることができた。

 配信の3部作も含めDVD発売も決まったけれど、警察や観衆の視点を含まない、完全に演奏シーンだけのバージョンもぜひ観てみたい。
 警官が乗り込んできてからは、いつ止められるのかとドキドキしてライブに集中できなくて困るw

 追記

 ビートルズのことばっかり書いてしまってた。これ、69年のロンドンの街角の記録としても素晴らしい。

 ライブ会場となったアップルスタジオのあったサヴィルロウはオーダーメイドスーツの名店が立ち並んだ地区。サヴィルロウがもじって背広という日本語になった説があるらしい。007がスーツを仕立てるのもココだし、キングスマンの紳士服店があるのもココ。

 どうりで男はほとんどがスーツ。現在みたいにスウェットやジャージで外歩いてるヤツなんかいない。イカした女の子はミニスカートで、ご婦人は毛皮のコート。そういえばジョンもジョージもリンゴも、あまりの寒さにみんな当時の彼女のコートを着て演奏している。ポールだけスーツで決めてるのズルいし。とても20代とは思えないカッコ良さ…って、またビートルズの話になってる。これエンドレス…