よしまる

日本列島のよしまるのレビュー・感想・評価

日本列島(1965年製作の映画)
4.6
オンライン上映会、この時は自選の回。熊井啓作品をいくつか観ていて、この初期作品は未見だったので友人の評価も知りたくてお題に挙げさせてもらった。

いつも骨太な社会派ドラマを描く監督だけれど、2作目にしてこの完成度、ただただ驚かされる。

戦後GHQに支配される日本。そこにはCIAによるスパイ活動、アメリカの不穏な動きとそこに同調する日本人、何やら大きな黒いモヤが列島を包み込んでいるのがわかる。

とある些細な事件を調べ始める宇野重吉は米CIDの通訳で、妻を米軍による暴行で亡くした(かもしれない)過去を持つ。
そのせいもあってか、事件に関わる者の不可解な死や失踪に目を背けることなく立ち向かっていく。

 この宇野重吉の悟り切ったかのような朴訥とした表情の中に秘めた内なる闘志のようなものが極めて印象的。
後で知ったのだけれど、寺尾聰は父のこの演技を見て役者を目指したと言われているらしい。確かに、ラスト近くの飛行場の
ショットは名演としか言いようがない。

それだけではない。
芦川いずみの凛とした佇まい、二谷英明の男前な記者、一言も喋らないのに日本のフィクサー然とした大滝秀治の半端ない存在感。
霧に包まれたような物語が、名優たちの渾身の演技によって形作られていくのがめちゃくちゃカッコイイ。

その要因となるのは役者だけではなく、稀代のカメラマン姫田真佐久の数々の名ショット。宇野重吉をフレーム越しに捉えたり、あえて大声を出して聞き取りを行うシーンは印刷機の隙間からという臨場感、ロングズームでのチェイスシーンも緊迫する名場面。
何より芦川いづみをジェット機と同じフレームに収めた(しかも2連発)のには痺れた。白状すると個人的な好みももちろんあるのだけれど笑、もうさしづめジェット機女優である。

伊福部昭の劇伴もサスペンスを煽って味わい深い。
ここぞという場面では、「ちゃーん、ちゃちゃちゃちゃ、ちゃーん♪」でお馴染みの「モスラ対ゴジラ(1964)」のテーマ曲に近しいフレーズが幾度も出てきて盛り上げてくれる。

そんなディテールの積み重ねが、思いがけぬ結末へと至り、芦川いづみ迫真の演技で終幕となる(ここでもジェット機が!)。
それにしてもあのシーンは衝撃的すぎる。
普通はわざわざ撮らないよ……

事件の全貌は明らかにならないし、なんの解決も提示されない。
ただ、黒く蠢く世界がそこにある。
国会議事堂を構える、この日本の地に間違いなくあったのだ。