むらむら

ザ・ビートルズ Get Back:ルーフトップ・コンサートのむらむらのレビュー・感想・評価

5.0
ビートルズ最後のライブとなった、ルーフトップコンサートを追ったドキュメンタリー。

ビートルズの曲名にもある「ドライブ・マイ・カー」を観たあとだから、と引っ掛けたわけではないが、IMAX限定で劇場公開されていたのでIMAXにて鑑賞。

あまりに臨場感あって、池袋グランドシネマサンシャインと新宿TOHOシネマズ、違うIMAXで計二回も観てしまった。

両方音響的に素晴らしかった。特に池袋は別格。ホント、ビートルズが目の前で演奏してるみたいな臨場感。

本編と関係ないけど、IMAXの本編前に流れる「10、9、8……」とカウントダウンする宣伝映像、測ったわけじゃないけど10秒以上ある気がする。あとたまに

「I M A X」

ってドドーンとロゴが出ると

「I N A X」

のトイレを思い出してしまうのは俺だけだろうか。なんか大スクリーンで「トイレーは大丈夫かー!」と言われてるような錯覚に陥るので困っているのだが……。

こんなどーでもいい話はさておき、本編に関して。

あ、先に書いておきますが、俺、ビートルズのこと詳しくないので、間違った記述とかあるかもしれないのでご容赦ください。ビートルズはおそらくビートルズ警察がウヨウヨしてると推測されるので、コメント欄に「全部間違ってるわ!」「死ね!」「素人童貞乙!」って書かれてしまうかもしれません。

なので、先に予防線張っておきます。以下の記述は間違ってる可能性もあるよん。

0.イントロダクション

ビートルズの結成から軌跡が5分ほど流れて、このアップルビル屋上でのセッションの模様に移る。
リバプールで1960年に結成されたビートルズは、前代未聞のスピードで世界を席巻。世界中をツアーで回るようになるものの、アンチの批判などに耐えきれずコンサートを封印。

(この辺は、「ザ・ビートルズ EIGHT DAYS A WEEK‐The Touring Years」
https://filmarks.com/movies/68980 に詳しいです)

レコーディング技術の限界に挑戦するかの如く、スタジオに籠もり、中期のアバンギャルドな名作群を連発する。

そこに、「ライブアルバムを作ろう」というコンセプトで制作が開始されたのが、このコンサートになったらしい。

もともと「ホワイトアルバム」の曲をパフォーマンスする方針だったのが、結局ビートルズの4人は2週間で14曲を仕上げ、その新曲を演奏することに。

20日間のリハーサル中、ジョージが一時脱退するなどの危機を乗り越えて、1969年1月30日(木) 正午から、ロンドンにあるビートルズの会社・アップルのビルの屋上にて、関係者だけを集めたコンサートが行われることになった。

そしてこれが、公式にはビートルズが公衆の前で演奏した、最後の記録となる。

本編は

1.アップルビル屋上
2.ビルの前に集まった群衆
3.受付で押し問答する警察官

の3つの視点を切り替えながら進行する。

1.アップルビル屋上

屋上に5台、向かいのビルに1台のカメラを設置。

50年前の映像とは思えないほどクオリティ高い上に、このうちの幾つかのテイクは実際にアルバム「LET IT BE」に収録されてるわけだから、中身が良くない訳がない。

個人的には、解散直前だし、もっとメンバー同士ギスギスしてるのかな、と思ったらそうでもない。ちなみに解散の原因になったとも言われる新しいマネージャー、アラン・クレインがビートルズと契約したのは、この一連のセッションが終わった直後だったので、この時点での四人はそんなに険悪……というわけではなかったのかもしれない(上に書いたように、ジョージが一時レコーディングから抜けたりしていても)。

それにしても、オノヨーコの存在感。
オノヨーコに恨みはないんだけど、とにかく顔力が強い。

チラチラ映ってるのに存在感がハンパない。

松尾芭蕉がアップルビルの屋上にいたら、確実に

「オノヨーコ ああオノヨーコ オノヨーコ」

としか詠めなかったんじゃないか?って気になるくらいの存在感の強さ。アップルビルによじ登る進撃の巨人だと言われても信じると思う。

こんな強烈なキャラがずーっとジョンと一緒にいたら、さすがに周囲のメンバーも気になって仕方ないだろうなーってのを改めて実感させられた。

そして目の前でジョンから

「僕は初めて恋に落ちたんだ。この愛は永遠なんだ」

って歌詞の「DON’T LET ME DOWN」を歌われてるの、とてつもなく濃いのだが、それを受け止められるのもオノヨーコなんだよなーってのも実感させられる。

2.ビルの前に集まった群衆

屋上と並行に、大音量で始まったルーフトップ・コンサートの音を聞きつけてアップルビル前に集まってきた群衆にもインタビュー。

「これ、ビートルズだよね!」
「最高!」
「娘の婿に欲しいね」

と、興奮気味に返す人たちがほとんどなのだが

「寝てたのに起こされた!」

と怒ってるオバちゃんもいる。真っ昼間っから寝てるオバちゃん、俺じゃないんだから、仕事しようよ……。

まぁ確かにビートルズだから

「こんな貴重な機会に立ち会えてるの羨ましい!」

って、俺も思ってしまう部分はあるが、よく考えると、これがフランク・ザッパとかボアダムズとかだったら、俺も「うるせー! 寝せろ!」って怒ってたかもしれないので、一概にオバちゃんが無粋だ、って思うのも違うかなーって気になった。

3.受付で押し問答する警察官

3つめのパートは、30分で30件もの苦情が来た、とアップルビルにやってくる若い警官二人と、受付でのアップルビル関係者との押し問答。

この映像がルーフトップコンサートと交互に流されることで、我々は「いつか強制終了させられるんじゃないかな」とサスペンスを感じることが出来る。

ホントこいつら邪魔で、お前らはラブリーリタと一緒に駐車禁止でも取り締まってればいいと思うのだが、やけにしつこい。

それでも、警官二人の追求をのらりくらりとかわしていくアップルビル関係者。

「なんか屋上で撮影やってるみたいですねー」
「映画撮ってるみたいですよー」

と、受付のスタッフはのれんに腕押し、のらりくらりと警官の追求をかわす。

最終的には突入を許してしまうも、少なくとも50分間もの間、コンサートを死守したのは、この受付の人たちの頑張りがあったと思う。ありがとう、受付の皆さん!

よく考えれば「30分苦情があった」割にやたら早いタイミングから警官二人出てきた気もするが、とにかく50分は続けられたのでヨシ!

警官二人が屋上に向かったあと、遅れてラスボスっぽい太った警官も登場。さらに受付嬢とやりあうところの台詞もユーモアが効いている。

「屋上に私も行きたいのだが」
「駄目です重量オーバーです」

受付の人、完全に警官をおちょくってるよね。

あとどーでもいいけど、このやりとりの一部始終、受付にあった隠しカメラで撮影されているとしか思えないのだが、ちょっと隠しカメラとは思えないくらいカメラがバッチリ、真正面から警官二人の様子を捉えてるんだけど、これ、どーいう隠しカメラなんだろう。

結果、ラスボスも屋上に突入して、「Get Back」を歌ってたポールがそれに気付いて、演奏は終了させられる。

演奏終了直前、ポールはアドリブで歌詞の最後に

「ロレッタ、また屋上で遊んでるの!? ママはそれが嫌いなのよ! ママが怒ってる! ママは貴女を逮捕させるつもりなのよ、(屋上から)戻ってきて!」

とアドリブをかましてて、それも素晴らしい。やっぱポール、すっごい頭いいわ。

幸い、ポール含めメンバーやスタッフの誰も、逮捕される事態には至らずに事なきを得る。

ちなみにポールが逮捕されるのは、約10年後の日本だけど、まさかポールも日本で逮捕されるとは想像もしてなかったろうな。

4.地下のコントロールルームでサウンドチェック

ルーフトップ・コンサートは終了。

メンバーは一旦地下に戻って、プロデューサーのジョージ・マーティン、レコーディング・エンジニアのグリン・ジョンズ、オペレーターのアラン・パーソンズと共にサウンドチェックをすることに。

「『コンサートが中断されたのは警官のせいだ』って映画で出してくれ」

と、まだ警官に本気で怒ってるジョージ。

的確にどのバージョンを使うか、判断していく冷静なポール。陽気なリンゴ。そしてオノヨーコといちゃいちゃしてるジョン……。と、短いながらも4人のキャラクターがよく分かるシーン。

5.エピローグ

エピローグ風に描写されるのは、翌日、集中的に行われた地下のスタジオでのレコーディング。

「TWO OF US」や「THE LONG AND WINDING ROAD」「LET IT BE」などが集中的に演奏されたという。

「THE LONG AND WINDING ROAD」のみこの日のテイクが使われず、一週間前のテイクが使われたが、それにしても「LET IT BE」に収録された数々の名曲が、この一週間で完成していることに驚愕。20世紀の音楽史上に残る濃厚な一週間。俺の一週間が100万回繰り返してもこれほどの成果は残せないだろう。

余談だがビートルズの曲は、いつでも俺の心を打つ。

最近だと、「長く曲がりくねった道」「なすがままに」という歌詞は、エルデンリングで狭間の地を彷徨う俺のことを歌っているんじゃないか、と感じているのだが、そんなこと言うとビートルズ警察に怒られそうなので、心にしまっておくことにする。

最後に、レコーディングの最中、ジョンとポールが「TWO OF US」を歌う前に交わした一言で、この長く曲がりくねった感想を終えることにする。

ポールは「TWO OF US」を妻リンダの曲だと言ってるけど、

「僕たち二人には、これからの未来よりも、もっともっと長い思い出がある」

って歌詞を詠むと、俺はどうしても、ジョンとポールのことを想起せざるを得ない。

この曲を、ジョンとポールのことを歌った内容だ、と俺が解釈することを、今日だけは、ビートルズ警察のみなさんも多めにみてほしい。

そして、「TWO OF US」を歌う前に交わした一言は、これだ。

「おやすみ、ジョン」
「おやすみ、ポール」

(おしまい)
むらむら

むらむら