すがわら

ザ・ホエールのすがわらのレビュー・感想・評価

ザ・ホエール(2022年製作の映画)
5.0
今のところ今年観た中で一番良かった。
ラストシーンが非常に自分好みでうっかり泣いた。エンドロールが終わっても微妙に涙が乾き切らなくて恥ずかしかった。

 かねてから自分の人生に負い目を感じていた中年男性がボーイフレンドの死をきっかけに心を壊し、セルフネグレクトの末、海獣になって死ぬっていうレイトショーで観るのに丁度いい映画。

 まず冒頭が良かった。激デブおっさんがゲイポルノを観ながらオナニーしていたら心臓に負荷が掛かり過ぎて危うく死にかけるも、たまたま玄関先まで来ていたカルト宗教の宣教師に「白鯨についてのエッセイ」を朗読してもらうことでパニック症状を抑えて九死に一生を得る。という一連のシーケンスの凄まじさに心を奪われた。
 原作が舞台劇ということもありロケーションは極めて少ない。物語は全て主人公の家の中だけで展開する。退屈な絵面になりそうなものだけど、主人公は補助具無しでは自重を支える事すら困難なほど太っているので床に落ちたスマホを拾うだけでも生死をかけたサスペンスになる。凄く面白い設定だと思う。

 あと言い添えて置くことがあるとしたら、劇中の新興宗教「ニューライフ」のこと。ニューライフは家庭と子孫繁栄を重視するキリスト教分派らしく、なんとなく統一教会を彷彿とさせる。信者同士を無理やり結婚させるのは合同結婚式そのもの。自分は2,3年前、統一教会が運営するインカレサークルCARPに物見遊山で属していたこともあり、熱心に勧誘活動をしていた学生を何人か知っている。彼ら彼女らはマジで神とか悪魔が実在すると信じてるアホだが、善い事をしたいというモチベーションだけはやたら高い良い人達なので憎むに憎めない。劇中の宣教師トーマスに対しても同じ印象を抱いた。トーマスの立ち振る舞いやモノの考え方にはリアリティがある。

 
 物語は各キャラクターが抱える問題や情操が複雑に絡み合っていて示唆に富んでいる。デブ男がデブ過ぎて死ぬというシンプルな話でありながら色々な視座から語ることが出来る映画だと思った。
すがわら

すがわら