狂気の映画作家アロノフスキーが描く、信じることと正直さについて
この映画の観客は開始数秒後でチャーリーがどういう人かある程度知ることができる。超巨体であること、ゲイであること、病院嫌いであることなど。しかし、実際に劇中でその姿を見られる人間は限られる。なぜなら、チャーリーはあることをきっかけに、信じられるものをなくし、路頭に迷ったことで醜悪な外見に様変わりした。そして、彼はそれを見せないことにし、会う人も限るようにしていったからである。
そんな彼が新たに出会う2人--エリーとトーマスが今作のキーマンになる。自分の感情をはっきりと表明するエリーと、苦しみもがくチャーリーを救うために新興宗教に勧誘するトーマス。この2人の間の摩擦が起こすパワーが中盤の見せ場を作る。また、チャーリーの生殺与奪の権を握るリズの葛藤が全体を通じてきっちり演出されている。
かなり奇妙なストーリーを持つ。特にトーマスの存在についてはサスペンスフルなトーンがあって緊張感が常にあり続けている。
なにより、ブレンダン・フレイザーのオスカー受賞も納得の演技がとてつもないレベルに達しており、巨体から鳴り響く呼吸や物音までリアルに表現する見事なカムバックを賞賛したい。