いの

大いなる自由のいののレビュー・感想・評価

大いなる自由(2021年製作の映画)
4.3
何度も暗闇が訪れる。真っ暗闇のなかで幾度となく灯されるマッチの火。この映画は、暗闇のなかで灯されるマッチのような映画なのかもしれない。暗闇が何度訪れてもそれでも再び灯されるということ。ほんの少し灯されるだけでも、暗闇のなかにいる者を励ます。暗闇に投げ込まれる煙草とマッチ箱。誰がなんと言おうと、どう扱われようとも、決して心の灯りは消さないぞという想い。


刑務所内で何度も映される光景が印象的だった(両脇に各房、建物を上下に貫く階段??)。その構図が物語ることがとても多いように感じた。


敗戦直後の1945年。1957年。そして1968年。いずれも刑法175条下の西ドイツ。この3つの年代を行ったり来たりする脚本がとてもうまいのだと思う。そしてなんと言っても、主人公ハンスを演じたフランツ・ロゴフスキと、同房の服役囚ヴィクトールを演じたゲオルク・フリードリヒが素晴らしい。どのような賛辞を贈っても贈り足りないくらい 圧巻。


鑑賞後に心のなかで反芻してたときに、「あ、もしかしてヴィクトールのあの台詞はホントのことじゃなくて、ハンスを思いやってこその嘘なのかもしれない」などと(勘違いかもしれないけれど)考える。3度目の入獄の契機となった 冒頭の一連の場面は、そうか2度目のときにあんなことがあったからハンスはああいった心境になってたのかもと、そういったこともあとから思い返して、やっぱりあれこれ考える(*鑑賞後に話し合いたくなる映画であることは間違いない)


今作を、映画的美談に落とし込まない制作側の姿勢にも感服した。性行為も美的に描かないのはもちろん意図的なのだろう。蔑む人がいるなら蔑めばいい。そんな反骨精神も含んでいるのかもしれない。それよりも抱擁の美しさが際立っていた。数々の抱擁。愛しい人を優しく包み込むような抱擁。共に生きている者としての(同志としての)抱擁、その人の悲しみがわかるからこそ寄り添って抱きしめたい気持ち、苦境のただなかにいる人への励ましの抱擁。今、あなたの隣にはわたしがいますよという抱擁。数々の抱擁にはそれぞれの気持ちが込められていて、思い出すだけで鼻の奥がツンとしてくる


最後の場面の描き方は、個人的にはとても格好良いと感じました。わかる! 結局ああしかなれない(迎合できないし迎合する気もない)ハンスの気持ちのあらわれだと。これも語り合いたい場面のひとつ



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カードカウンターのオスカー・アイザックと通底するような今作のハンス(つまりは格好いいということです)
いの

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