Ren

NOPE/ノープのRenのレビュー・感想・評価

NOPE/ノープ(2022年製作の映画)
3.5
ホラー+社会派の使い魔ジョーダン・ピールの第2章の始まりの一作として楽しんだ。予告だけ観て「?」だった皆様におかれましては、その「?」のまま行ってほしい。スピルバーグとシャマランとヴィルヌーヴを混ぜ合わせた、J・ピールお手製のミックスジュース。これをIMAXで流しちゃうのだから狂ってる。

ホラーをホラーとしてだけ消費せず、ラディカルな設定と大胆なジャンルミックスで斬新な作品を作ってきたJ・ピールだが、『ゲット・アウト』『アス』とはまた少し毛色が違う感がある。前者の人種差別や後者の格差社会などはまだテーマが明確だったけど、今作はそれらよりも説明は少なくなっていた印象。まずテーマ性に行き着くまでがかなり困難で、小難しくしすぎなのでは?と感じてしまう瞬間も多々あった。
だけど、まずは大金かけたB級SF映画として観ていいし、IMAXスペクタクルとして楽しめる作品。だからそんなに「分からない」という感想が出てくるような種類の映画では絶対になく、メッセージや批評性云々の前にまずは『ジョーズ』のようなジャンル映画。小難しく考えないで!

端的に言えば「見る」とは、を問うた映画。問題を見上げるか/見上げないか、そして歴史を振り返り問題提起する姿勢は『ドント・ルック・アップ』や『ラストナイト・イン・ソーホー』にも通ずる。
文字通り「搾取」の下に成り立っている映画の歴史への鋭い目線。映像作品はカメラを向け合う戦争であり、そこにJ・ピールは「それ(撮ることで何かを搾取してきた映画の批判)自体をIMAX映画として撮る」というアンサーを出してみせた。
『由宇子の天秤』や『神は見返りを求める』など近年のミニマルな邦画で見られた「カメラを向ける/見る行為の持つ攻撃性」が、ハリウッドの第一線で活躍する監督の手によってビッグバジェットの規模感の映画で再現されたような感動がある。

一番のお気に入りシーンは、シットコムのセット裏からゴーディーがゴソゴソやっているところまでワンカットで迫るところ(こんなミニマルな場面にIMAXカメラを使っている狂いっぷり)。何かが来る....来る....という真っ当なホラー演出の才が光る。

広大で荒涼とした田舎の景色と、空から何かがやってくる緊迫感。縦横と上下に広がる立体スリラーはぜひともIMAXで(音響も素晴らしい!)。
『ゲット・アウト』『アス』で下(地下)を見てきたJ・ピールは今作で上(上空)を見上げましたが、次回作で彼は何を見て、何を撮るのか、今から楽しみ。



《⚠️以下、ネタバレ有り⚠️》










『ゲット・アウト』よりも『アス』が好きな理由は、それはより舞台が広がった&ギャグやバイオレンスなどエッセンスとして楽しめる部分が増えたから。
その流れで今作も楽しめたのだけど、やはりどうしたってチンパンジーのサブストーリーのほうが面白そうで、全体のバランスが不恰好になってしまっていた感がある。

人間は娯楽のためにチンパンジーを使うが、彼はその反動で爆発しスタジオを血の海とする。テーブルの下で子役のジュープと動物という「大人=上位の存在に使われる者」同士が手と手を触れ合わせようとするシーンは、生々しい『E.T.』を観ているようだった。
そんな子役は大人になって、遊園地で馬を使い「搾取する側」になる。映画産業の病理の連鎖。

UAPもといGジャンは、映画産業・資本主義の中で文字通り「搾取」の目線として捉えるのがまずは妥当かな。過去にチンパンジーが暴走したあの事件から人々は何も変わらず、Gジャンに襲撃される。後には血の雨も降る凄惨さ。動物や子どもや黒人を食い物にしてハイ終了と切り捨ててきたグロさが視覚的に降り注ぐ。
そこに対して、人々はさらに立ち上がって(黒人のキャラクターも白人のキャラクターも関係無く結託するのも良い)まだ彼らにカメラを向ける。「見られてきた者たちの復讐」という紛れもない事実を/歴史を「見る」。映像作品とは「撮る/撮られる」「見る/見られる」の戦争だ。

OJ(ダニエル・カルーヤ)とエメラルド(キキ・パーマー)はハンドサインで「見る」の意思表示をする。ギスギスした兄妹が結託する熱い展開でありながら、「今起こっている問題からはもう目を背けない」ということでもあると思った。

世界最初の映像作品に映った黒人男性は歴史に残らなかったけど、映画のラスト、世界で初めてUAPを記録に収めたエメラルドは歴史に残らないといけない。世界は当たり前のようにそうでないといけない。

その他、
○ OJの周辺にアナログ機器が多い
○ 動物(馬やGジャン)と目を合わせると攻撃される
○ 大人がチンパンジーを/アジア人が馬を/UAPが人々を/圧倒的な力の差で搾取することの有害性など、点として語れる部分は多いけど、それらを映画として一本の線で繋げられていないのが正直なところ。散漫という意見も分からなくはない。
Ren

Ren