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本当の僕を教えてのRenのレビュー・感想・評価

本当の僕を教えて(2019年製作の映画)
3.5
85分でここまで暗澹たる気分になれるドキュメンタリーはなかなか無い。事故で記憶喪失となった双子の弟に、家族のこと、家のこと、彼自身のことを教えていく双子の兄。しかし弟が母親の部屋で顔から上が千切られた兄弟の写真を見つけた時から、2人の世界は崩壊していく。

双子とは、家族という人間が逃れられない最も強固な繋がりの中でも特に強力な呪縛になり得る(自分には双子はおろか兄弟姉妹もいないので受け売りの穿った見方かもしれない)。
人生とは記憶であり、記憶の喪失は人生(主観)の喪失と同義である。
信じていた世界が虚飾であると理解してしまった瞬間に、人は寄辺を失い真っ暗になる。
以上の絶望を同時に背負うことになってしまった人間の実話。そこらの「胸糞/鬱映画」では太刀打ちできない。ここまで救いの意味を含まない「死とは現実からの逃避である」も無い。

ドキュメンタリーなので現代のインタビューと対話が主体であり、過去は全て資料映像的な解像度の粗い再現VTRで綴られる。胸糞ポルノ的な消費をされないであろうある種の安心感は、実在・存命の人間に接し彼らのリアルな反応と心情をそのまま(たまたま)カメラで切り取っている(という体(てい)だ)からと言える。ショッキングな事象そのものを映像化している訳ではない。

ドキュメンタリー映画の中でも特に、映画というよりは報道のような味が強いと思う。たまにNHKが本気を出して多くの視聴者の間で語り継がれることになる特番のような手触りだった。ワイプに抜かれる芸能人が居ない分、下世話にポップにならずただしんどさのみを摂取できる。
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