keith中村

NOPE/ノープのkeith中村のレビュー・感想・評価

NOPE/ノープ(2022年製作の映画)
5.0
 何を言ってもネタバレになる、セッティングやプロットについて何にも書けない困った映画。
 だけれども傑作。大好きな種類の映画。
 
 「得体の知れなさ」が映画の推進力になってどんどん進んでいく様は、シャマラン師を強烈に彷彿させる。
 とはいえ、劇場を出て振り返ってみれば、物語としてはシャマランより「ジョーズ」にそっくりだったよなあ、と思う。
 怖さも、子供の頃に「ジョーズ」を初めて観た時の恐怖感覚とそっくり。久しぶりにほんとうに怖いホラー映画を観た気がする。
 
 ジョーダン・ピールの作品は常に"Elevated Horror"だから、語られる物語と作品のテーマがイコールではない。
 とはいえ、前2作はテーマがかなり分かりやすいものだった。
 今回はそこが「誰でもぱっとわかる」作品にはなっていない。だから、まあまあ賛否が分かれるんじゃないかと思う。
 
 ピールさんのインタビューなんかを調べれば、監督の意図は語られているのかもしれないけれど、予備知識なく初見で自分が感じたのは「映画を作ることの本質的な『業』を描いたんだな」ということ。
 エジソンよりも、リュミエールよりも前の、本当の意味での「始祖」であるマイブリッジのゾエトロープ(馬が走るやつね)から始まる本作は、いきなり「今回は映画そのものに言及しますよ」と宣言しているように思えた。
 
 映画を作ることの本質的な『業』とは、「それでもカメラを回し続けなくてはいられない病」ということ。まさに「カメラを止めるな」ってやつですね。
 メインの(ネタバレだから言及できない)ガジェットもそうだし、一見何故挿入されるかがわかりにくい「お猿さんパート」だってやっぱり映画(というか、あれはテレビだけどさ)の業を意味してるんですよね。
 
 さらに、その『業』は、「見てはいけないものを見てしまう・むしろ見たい」とも言い換えが可能で、そうなると今度は我々観客の『業』のほうにまで切っ先を向けられてる気がしてきて、ほんとにピールさん、小癪な人だわ(笑)。
 
 これとは別の文脈での映画の『業』をテーマにした「テリー・ギリアムのドン・キホーテ」まで思い出しました。
 
 劇中で家の壁に貼られたポスターは、シドニー・ポワチエが監督・主演した「ブラック・ライダー」。
 もちろん、ピールさんたちアフロ・アメリカンな映画人の大先輩の作品です。
 冒頭のゾエトロープで馬に乗る黒人が、主人公のご先祖様という設定になっていて、ここはフィクションなんだけれど、ポワチエさんはもちろん黒人として映画史上はじめて「顔と名前を与えられたばかりか、オスカーまで獲った偉人」ですよね。
 そりゃ、それ以前にハティ・マクダニエルさんは「風と共に去りぬ」で助演女優賞獲ってるけどさ。
 とはいえ、あれは公民権運動的にはどうなんだいって映画だしさ(もう、これと「國民の創生」はほんとにやっかいな「名画」ですよね!)
 「顔と名前が売れてる黒人スター」はポワチエさんが元祖。
 そこから「黒いジャガー」を代表とするブラッスプロイテーション映画があって、エディ・マーフィーなんかもあって、という連綿と続くアフロ・アメリカン映画史の最前線にいるピールさんがさりげなく(だって、「ブラック・ライダー」のポスター、何度か映るけど、ほとんどのカットでピンが合ってなかったよ)オマージュしてるのも、私が本作を大好きになった要素のひとつ。
 
 
9/3追記
うわー! 読み返したら、俺、日本一のジュディ・ガーランド研究家を自認してる癖に、こんなにもオズな映画で、そこ全部書き漏らしてるわ〜😭

Come out, come out. Wherever you are 言ってたし、竜巻🌪だし、今回は牛じゃないけど馬が空中舞ってたし、妹さんの名前はエメラルド・シティから採られてるし。
やっぱ焼酎ラッパ呑みしながらレビューしてはいけません💦