ビクトル・エリセが新作を撮ったらしいというのは、去年のカンヌのニュースで初めて知ったんだけど、「マジ?! とうとう作ったんだ!」って相当驚いた。
私の知人のさらに友人に、ビクトル・エリセ研究で博士号を取った人がいるって話は「ミツバチのささやき」レビューに書いたことがあるんだけど、この知人と二人でしみじみ「いや~、まさか新作を観られるとはね~」なんて話した。
その「ビクトル・エリセ博士」に関しては、これで研究対象の作品が三分の四、すなわち実に33パーセントも増えたという計算になる。彼は日本でいちばん喜んでるんだろうな。
あ、本数カウントではオムニバスはとりあえず除外してますよ。エリセには日本の3.11に心寄せてくれるのもあったけど...。
今年の頭だっけ、去年の暮れだっけ、劇場に初めて予告篇がかかったときには、「うひゃ~! これがそうか~!!」ととんでもなく嬉しくなった。最近、予告がかかって「ついに来るか~!」とアガったのは、これとフュリオサね。
世間では31年ぶりの新作って騒いでるけど、私にとっちゃあ「ミツバチ」「エル・スール」を立て続けに観た80年代以来という感覚なので、40年近く振りということになる。というか、もう撮らない監督なのかと思ってましたよ。
本作はエリセ作として最長の169分。
正直、途中で眠くもなったけど、素晴らしかった。
最近とみに増えた「映画に落とし前をつける映画」。
劇中の監督がエリセに重なって見える構造。しかも、映画内でも二重構造。
「ミツバチ」は「フランケンシュタイン」だったけど、こちらにもオマージュが入ってた。
まずは映画の「ミトコンドリア・イブ」たる「ラ・シオタ駅への列車の到着」。
私が大好き過ぎてしょっちゅうレビューで言及してる「リオ・ブラボー」から「ライフルと愛馬」。
そして、ドライヤーの「奇跡」。ここは粋だけどちょっと皮肉なセリフとして出てきました。
あと、閉館した映画館主人の「ここいらで撮影されたマカロニ・ウェスタンは、この劇場でラッシュをチェックしてましたよ」というセリフ。ちなみに、ラッシュって現像しないとプロジェクターに掛けられないと思うんだけど、近くに35ミリ映画を現像できる現像所もあったんでしょうかね。
あ、ラッシュもそうだけど、テレシネとかポスプロとか、まあまあ映画ファン以外に、それ以上に業界以外には通じにくい用語が頻出してましたね。字幕は原田りえさんでしたが、「それが通じる客が来てくれる」と信頼してくれてたんでしょうね。
ところで、「死ぬ間際に歌いあう」って、「ウエスト・サイド物語」以来じゃない?!
あっちはミュージカルだから、一応よしとして、こっちはストレートプレイだから、まあまあニヤニヤしちゃった。「ウエスト・サイド」のオマージュかな。
ところで、本作で描かれるエピソードって、日本で言えば若人あきら(aka我修院akaカルシファー)だよね?!
そこも申し訳ないけどニヤニヤしちゃいました。
観終わって思ったのは、「瞳をとじて」って邦題って、壮絶にラストのネタバレしてんじゃん! ってこと。
まあ、原題が英語で言う「Close Your Eyes」だから直訳ではあるんですけどね。
あと、ポスターがちゃんとそれとは違うミスリードな「瞳をとじて」になってるのは好感が持てます。
それからアナちゃん! 面影あったよね~。前回も今回もどっちも役名までアナちゃん。
自分より2歳年上のお姉さん捕まえて「アナちゃん」もないもんだけど、俺たちが10代で観たアナちゃんはまだ7歳だったもんね。スペインでは普通に活動してるんだろうけど、極東の国の住人としては、「は~、そりゃ俺も年取るもんだな~」と思いました。
(アナちゃんと俺は誕生日が同じ。「へへん!」←いや、別に自慢にならないから!)
ちなみに、これは平井堅の時点で言及されてることだけど、瞳はとじません。閉じるのは瞼。
瞳をとじるのは爬虫類だけです。
まあ、字面が美しいから仕方がないんだけどね。
今回「とじて」が平仮名なのも平井堅に寄せてきたんだろうね。
今日は仕事帰りに日比谷シャンテで観てきました。
狭い入口に結構人が多くて、何でかな? と思ったんですが、近い時間に「PERFECT DAYS」やってたせいですね。当たってますね。私の近くにいる人で普段映画館行かない人数名から「観てきた」って聞くくらいだもん。
(今、謝ります。「PERFECT DAYS」は東京国際映画祭のオープニングで先行鑑賞した後にレビュー書いたんで、相当早い段階で相当ネタバレしてました!)
あっちは4階でやってて、こっちは地下1階でした。
エレベータが開いた瞬間、係の人が「こちらでは『瞳をとじて』という映画を上映しております!」って大声で叫んでた。
あれだよね。「PERFECT DAYS」のつもりで間違えて降りてくる人が多いから、そう言うようにしてるんだろうね。
これ、ちょっと腹立たしかったですよ。
何がって、「『瞳をとじて』という映画」という表現。
「こちらでは『瞳をとじて』を上映しております」でいいじゃん!
「誰も知らないだろうけど、そういう題名の映画があるんですよ」ってニュアンスでしょ?
そうじゃない? だって、
「『スター・ウォーズ』という映画の中で、『理力の共にあらんことを』と言うんです」
「『007シリーズ』というスパイ映画がありまして」
「『男はつらいよ』という映画シリーズでは渥美清という俳優が主役をつとめました」
なんて言わんでしょ?
「という」は、誰も知らないか、もしくは知ってる人が極端に少ない時にしか使わないんですよ。
私も言ったことはあります。大学で作ってた自主映画の上映会に呼び込むとき。
「こちらでは『中村探偵物語パート3・鵺』という映画を上映しております!」
それが正しい使い方。私が主演したそんな映画、誰も知らんでしょ? たとえ、「パート3」であっても自主映画だもん(笑)←ちなみに、このシリーズの監督が、「カラオケ行こ!」レビューで書いた、私に原作漫画を貸してくれた友人←実にどうでもいい註釈。
とはいえ、「瞳をとじて」も結構客入ってましたよ。そこも嬉しかったな。
だから、シャンテの人は、ちょっと反省しろ!
「『瞳をとじて』という映画」じゃねえわ! そこは「みなさんお待ちかねの『瞳をとじて』」だわ!
もしシャンテの中の人がこれを読んだら、即刻明日からは「みなさんが31年もの長きにわたって待ち侘びたあの巨匠ビクトル・エリセの最新作にして最高傑作『瞳をとじて』はこちらで上映しております!!」と言い換えたまえ。
何?! 恥ずかしいだと?! ええい! そんなの「『瞳をとじて』という映画」というほうが余程恥ずかしいとわきまえたまえ!
という事を書いてみました。
これで、書き残したことはなかったっけ?
あっ。あった。
拝啓。日本のビクトル・エリセたる長谷川・ゴジ・和彦様。
エリセさんにもこうやって新作ができました。
だからだから。どうかどうか。
ゴジ様もぜひぜひ新作をお作りください。
だってだって、ゴジ様はエリセ様より6歳もお若うございますゆえ。
このくだり、若い人にはわからんだろうな。
ええっとですね。
昔むかし長谷川和彦という映画監督がいてですな、「青春の殺人者」という映画と、「太陽を盗んだ男」という映画を撮ってですなあ。
はっ!
「という」使っちゃったよ!
そうならないためにもゴジさん、お願いいたしまする! 平身低頭!