ほんとに失礼な話なんだけれど、私はこの手の映画には、物見遊山的な、何なら半笑いで臨む性格を持っている。
今日もそんな態度で行ってきましたよ。観るつもりはまったくなかったんだけれど、昨年末からロングランしてて、そういう映画は時間帯が微妙になることも多いんだけれど、本作は会社帰りの時間にぴったり合ったから。
いや、予想してたより全然よかったですよ。
客も少なかったけれど、けっこうグスグスと洟をすする音も聴こえてきた。
冷笑的な私でさえも「石丸君と千代ちゃんの別れ」はちょっとウッて涙ぐんだ。
原作がいわゆる「ケータイ小説」というのも観た後で知った話なんだけど、原作者の汐見夏衛さんは元高校教師なんですね。で、教え子たちが太平洋戦争も特攻もろくに知らないと。で、自分が子供の頃に訪れた知覧の特攻平和会館で受けた衝撃をベースに創作した作品なんだと。
いやあ、つくづく発表するメディアでもってバイアスをかけるのはいけません。
ケータイ小説すみませんでした。
そんな志を持つ作家もいるんですね。
失礼しました。ちゃんと詳しく調べて創作された原作なんだと思います。
申し訳ないんだけれど、一生観ることがない作品だと思ってた。
それが、先週末たまたまテレビで日本アカデミー賞を漫然と見てたら、本作に松坂慶子が出ていることを知った。
「あ、これって現実の鳥濱トメさん役じゃん!」ってなって、「なるほど、ちゃんと事実を踏まえた作劇なんだ」と、そこで興味を持ったので、今日の鑑賞につながった。
知覧は私も行ったことがある。2005年だっけ。
トメさんの富屋食堂の跡地はご子孫さんが経営する食堂兼土産物屋さんになってて、そこからちょっと行った「ちらん亭」のカツカレーがおいしうございました。茶美豚のカツなんだよな。
本作でまいんちゃんは自分事なので号泣してましたが、特攻平和会館に展示されている遺書は、私だってほんとに胸が詰まりましたよ。
何も特攻隊員だけじゃない。「きけ わだつみのこえ」は必読書です。
あと、千代ちゃんお手製の「花嫁人形」ね。
靖国の遊就館に行けば、展示コーナーがあります。
あれ、フツーは母親が我が子に贈るものなんだよね…。千代ちゃんの気持ちと、石丸くんのリアクション(予想通りの腹話術)ね…。あそこは良かった。館内からめっちゃすすり泣きが聴こえてきた。
いや、もう、伊藤健太郎くんは本作で禊は済んだでしょうよ! やっぱいい役者さんだから、これからも応援しますよ。
なんたって、大好きな「のぼる小寺さん」の主演俳優さんなんだから。
私も祖母の弟、つまり大叔父は特攻崩れ。
いや、違うな。出撃する前にたまたま8月を迎えたそうです。
だから、大叔父の「武おっちゃん」は酒を呑むたびに、60歳になっても、70歳になっても、80歳になっても、昭和20年から何十年経っても、特攻で散った戦友たちを偲んで泣いてた。
私は今年で56歳になるんですが、私の世代はフツーに「戦争を知らない子供たち」なんです。
だけど、そういう風に祖父母や親世代は戦前派。
いわば一次証言を聞かせてもらった。
だから、本作の原作者汐見夏衛さんの企図は、何なら(私には子供はいないけれど)「我々の子供世代に『あの戦争』を教える『入口』」としては成功していると思います。
「若くして厭世的になってしまった主人公の成長譚」という安定のフォーマットも常套的で教条的に過ぎるんだけれど、でも私みたいな老害じゃない若い人が本作を観て、前向きになってくれたらいいんじゃないかな。
だから、私は本作に感動して号泣してベストワンに推す人がいても全然いいと思います。
私の時代は、エンディングで流れたのはましゃの曲じゃなく、谷村新司の「群青」だったものね。
ところで、私の父は、大叔父の(父にとっては叔父の)「武おっちゃん」が酒を呑んで「同期の桜」を偲んで泣くたび、こっそり冷笑的にこう言ってた。私の父はまあまあ性格悪かったし、俯瞰してたからね。(その血を継いたんで私はシニカルなのさ!)
「たけっさんは、そら本人がなんぼ志願しても特攻には行かされへんかったで。何しろ本庄繁直筆の『武運長久』なんて書を持ってたんやから」
そうなんですよね。
戦争だろうが何だろうが、結局は社会は人脈とか関係性。
祖母方には満州事変のとき関東軍司令官だった本庄繁がいたもの。
その縁者がいくら特攻に志願しようが、そりゃ延ばし延ばしにするわな。
きっと本作は、今年の年末に劇場で観た作品を振り返る際に、忘れてすらいる作品かもしれません。だって、歳取るとこういう映画は過去にいくらでも観たから。
でも敢えて本作に満点の5点を献上するのは、まいんちゃんのこの台詞があったから。
「五號機、遅いよ!」
五號機だから5点。
私が何を言ってるのかわからない人は、せめて半年後くらいに本作が配信になったら観てください。
この台詞ほど、愛おしいものはないからねっ!