keith中村

湯道のkeith中村のレビュー・感想・評価

湯道(2023年製作の映画)
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 私の先輩で、温泉と銭湯が大好きな人がいて、それが嵩じて脱サラ、高齢化で継ぎ手のいなくなった銭湯を引き継いじゃったんだけれど、彼が公開時に観に行って酷評していたのが本作。
 
 本日配信で鑑賞したけど、その意見もまあ首肯できるところもあった。
 「湯道」の部分と吉田鋼太郎演じる評論家のくだりを取っ払って、単なる銭湯に来る人々の群像劇にすれば、もっとまとまりのある作品になったかと思う。
 
 とはいえ、脚本を手掛ける小山薫堂(この人の名前が小山内薫に酷似してるのも、全面的に否定できないところ)の風呂好きが嵩じて、2015年に設立した一般社団法人湯道振興協会の理念を布教(?)する企画が本作であったので、今の形以外の可能性はなかったわけだ。
 
 俳優陣が脇にいたるまで豪華だったので楽しめた。
 ストーリーも、上に書いたような夾雑物(失礼!)を除けば、さすがマルチな活動をしている小山薫堂なので、娯楽作品としてはとても手堅い仕上がりになっていると思う。
 
 銭湯を舞台とする作品がここ数年目立つようになっている。
「湯を沸かすほどの熱い愛」
「わたしは光をにぎっている」
「あったまら銭湯」
「メランコリック」
「アンダーカレント」
 そしてこの「湯道」
 
 それは、同じようなタイミングで「団地映画」が増えてきたのと一緒で、「早晩消え去ってしまうことが運命づけられている文化」への鎮魂歌なんだと考える。
 その意味では、今後は「書店映画」が増えていくのだろうと思う。
 いや、「騙し絵の牙」あたりから、すでに始まってるんだよな。悲しいけれど。
 
 本作でももちろん「失われてゆく銭湯」というテーマは示されているけれど、繰り返し描かれるノンバーバルな「桶の音」によって、本作としてのいったんの回答を鮮やかに提示して終わるところは、さすがに上手いと感心した。
 いや、たとえそれが「最後の悪あがき」に過ぎずとも、「トップガン マーヴェリック」でトム兄さんが言った"Not today"に並び立つ、気高い意思表明だと、私はちょっと尊敬の念すら覚えましたよ。
 
 橋本環奈ちゃん、本作でも良かったですね。
 何かのレビューに書いたけれど、彼女の映画キャリア初期の数作品は、ほんとに演技が下手だと思った。
 これ、本人に会ったら土下座して謝りますけど、ただ会えるわけないので、ここで繰り返しますけど、ほんとにごめんなさい。
 今じゃ環奈ちゃん出てきたら、安心するし嬉しいもの。それは彼女が10年にも満たない僅かな期間に相当な努力や苦労や勉強をなさった結果なんだと、とっても尊敬しています。本作のような快活なキャラはすでに彼女の自家薬籠中の物だよね。
(今後は「春に散る」のような従来と違った演技でも活躍なさることだろうしね)
 
 まあ、あんな住み込みの若い女性が銭湯にいるわけがないだろう、って思われる人もいるだろうけど、いるんですよね、これが。
 最初に書いた私の先輩がやってる銭湯がそれ。まあ、住み込みといっても、銭湯そのものではなく近くに借りあげたアパートではありますが。
 しかも、一人じゃなく男女の若者が数名。掃除や番台を交代で担当している。
 いわゆる芸術家の卵さんたちがメインみたいです。
 びっくりしたのは、その中の一人の女性が私の勤める会社にいるんですよね。
 こないだ先輩にあったとき、「お前の会社に○○さんっているやろ?」って言われ、何でか問い返すと、「住み込みで手伝ってくれてるんよ」ってなった。
 ご本人が会社で言ってないようなので、私も本人にも周囲にも黙ってるけどね。
 ただ、すごい偶然で面白いと思い、誰かに言いたかったので、「王様の耳」的に、ここに書いた次第です。

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本作とまったく関係ない追記。
 今や膨大な数になった、「JKがバンドを演るアニメシリーズ」ですが、それらのうちの某作で、この先輩の銭湯がモデルになった温泉が登場するらしいです。メンバーの一人が住み込みで掃除や番台をやってるという設定みたい。
この某アニメのファンたちからも、先輩の銭湯は聖地扱いされているんだとか。
ちょっと長いシリーズだけど見てみようかな。