keith中村

雨に叫べばのkeith中村のレビュー・感想・評価

雨に叫べば(2021年製作の映画)
5.0
 内田英治作品は、私に合わない演出をなさっていることが多くて、いつも「面白いか面白くないかと問われれば、そりゃ面白いんだけどね」ともやもやした感じになる。
 本作にも「私はちょっとどうかと思う演出」がいろいろ出てくるんだけど、それでもこんな剥き出しでひたむきな映画愛をぶつけられたら、この映画を大好きになるしかないじゃないですか。
 
 モトーラさんの「ドーナツの穴」シーンは見事だし、内田慈のセリフがいちいち素晴らしい。特に「え? 映画ってこんなに寂しいものなの?」という呟きと、「映画は戦いじゃない!」という啖呵には泣かされた。
 ラストのミュージカル・シーンは最も好き嫌いが分かれるところだろうが、私は「賛」です。私がミュージカル好きだということはあるけれど、逆にミュージカル好きだからこそ目が肥えているわけで、あんな学芸会レベルの振り付けはほんとは噴飯ものなんですよ。でも、そう思いながら泣いちゃってる。
 ちょうど、「ラ・ラ・ランド」の"A Lovely Night"で、「うわ~、エマもライアンもタップ下手すぎ」と思いながら号泣してしまうのと同じ。
 
 「ムーンライト・セレナーデ」が終わって、すぐラストショットに切り変わらず、一呼吸あるところもものすごく好き。
 欲を言えば。「踊り終わってから、一呼吸置いて、みんなで顔を見合わせて笑い出す」→その笑い声が聞こえたまま、ラストの「『お気に入りの場所』からドーナツの穴を通して見下ろす10歳の花子」→花子「フフッ」ってなる方がもっとよかった。
 
 それにしても役者が豪華。出番の短い脇役まで、私が知らない人がほとんどいないという豪華さ。
 
 あと、本作がとんでもないのは、これが東映作品で東映東京撮影所を舞台にしているということですね。
 パワハラが横行するブラックな職場環境や男尊女卑という、東映の自己批判的な描写。
 何よりも作られている作品が「落ち目な女優の濡れ場で売る」というもの。
 60年代の様式美仁侠映画、70年代の実録ヤクザ映画のあと、80年代の東映にはもう何もなかった。
 当時の東映の企画は「今度は誰を脱がすか」という会議から始めたと聞いたことがある。だから本作の劇中劇もポルノ映画になってる。本作はR18指定なんですね。
 
 物語内でもレーティングは問題となっていて、映倫ならぬ「映検」の大和田獏があれこれダメ出しをする。
 この関連で、「本作は後でビデオ化したときの採算も考えているから、ポルノの棚に置かれたらおしまい」みたいなセリフが出てくる。これも時代を反映していて、大手スポンサーにレンタルビデオの会社がついているという設定になってる。
 本作の時代設定も、東映自身が「東映ビデオ」を設立する前年となっている。本作自体が東映と東映ビデオの共同制作です。

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追記
本作を観たら、「ハケンアニメ!」を猛烈に観返したくなって観たんだけれど、そっちはそっちでやはり傑作でした。
映画を作る映画は山ほどあって、古典中の古典はもちろん本作のタイトルの元になっている「雨に唄えば」なんだけど、本作とそっくりなのは「ハケンアニメ!」。
どちらも女性監督の初監督作品の制作現場でのあれやこれを描いているし、同じような鉢巻をした矢柴俊博もいる(笑)。
ただ、本作はあくまで製作現場のみを描いているのと対象に、あちらの作品は、それが「届いた・刺さった先」までを描いていて、見較べると興味深い。
あと、あちらも同じく東映(劇中では「トウケイ」だけど)が舞台となっているのも面白い。しかも、あちらは自己批判でなく、逆に「大手の老舗」の矜持も描かれていて、双子のような作品だと思いました。