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ザリガニの鳴くところのSPNminacoのレビュー・感想・評価

ザリガニの鳴くところ(2022年製作の映画)
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殺人容疑で裁かれるカイアの壮絶な半生を紐解いていくのだが、事件だけでなく、何故みんなカイアを残して去ってしまったのか、なぜ残るのか。それがもう一つのミステリー。
逃げるしかないこともある。父の暴力に耐えかねた母と姉妹兄弟、父自身、愛するテイト。端からは勝手に見えるが、去って行った人たちには良いも悪いもない。また、絶望的状況のカイアには皮肉にも湿地だけが安全圏。カイアが自立するとともに家は自分の家らしくなっていく。但しあの家を訪れるのは男だけ(ボートが要るし、当時は女が簡単に行ける場所じゃなかったから)。心優しいテイトは将来への迷いから、死んだチェイスは縛られた家庭から彼女と湿地を逃げ場にする。
だが心に大きな傷を負った上、社会に尚更傷つけられるカイアだけは逃げない。福祉局の手も開発の手も自分のモノにしようとする男の手も拒み、かつて逃げられなかった少女は、逃げないことを選ぶのだ。湿地という聖域と、自らの尊厳を守るために。
いや、ずっとあの人が犯人かと思ったのだが(そう思わせる作りだが)、やはりすべては一人、一つの家族の物語に帰結するべきなのだった。何故去ったか何故残るか、どちらも生き延びるにはそれしかないから。そこには善悪もないし、裁けない。すべては湿地だけが知っている。
映画は原作小説で描かれた(だろう)湿地の魅力と魔力を、如何に見せるかが肝だったのではないか。湿度、迷路、浜辺、鳥や生きもの、光と影。ただ、デイジー・エドガー・ジョーンズが健気さとタフさの両面を演じてみせるけど、甘いルックスのせいか湿地も映画のトーンもきれいすぎたかもしれない。
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