三畳

マルセル 靴をはいた小さな貝の三畳のレビュー・感想・評価

4.0
マルセルはAirbnbで貸し出される空き家で暮らす、約2.5cmの貝。
テニスボールやミキサーなど、人間の文明を拝借駆使して工夫しながら生活を営んでいる。
「借りぐらしのアリエッティ」「トイストーリー」のような人間に姿を見られてはいけないルールはないらしく、本映像は家の借主=ディーン=本映画の監督による撮影であることがわかる。

会話は通じるし人間のテレビ番組にも詳しく、文化的で理知的な貝。
ディーン以外の人間も、マルセルを珍しがりこそすれ、その存在をあるものとして信じてすぐに受け入れているので、リアリティラインは「おさるのジョージ」に近いかも。


ディーンとマルセルは軽口を投げかけあえるくらいの、良き関係。
ディーンはネットに動画をアップロードする工程や、運転だけは手伝ってくれたけど、基本的に人間スケールの住居においてマルセルが困ったりトラブっても手を貸さない、助けない。
それは先住者であるマルセルの築いた暮らしを侵さず、尊重することでもあると思う。だからこそ種を超えた対等な友情が育まれた。


かわいいVlog(=モキュメンタリー映像)の中で、世界の広さに驚愕したり、おばあちゃんの死と直面したり、少年マルセルの勇気とやさしさが淡々気味に描かれる。


興味深かったのは「家族」ではなく「コミュニティ」であったこと、そして最終的にコミュニティが機能するとおばあちゃんと生み出した人力…いや貝力の工夫は不要になり、自給自足生活の回転率が上がるよ、ということについてもう少し聞いてみたかった。


昨日まで海に旅行に行っていて無数の貝を見たばかりの私は感動し、納得した。
岩場の窪みをのぞきこむと本当に大量の…全部で1億匹はいるかな…、大小(5mm~5cm)色んな種類の貝が生きていて、ゆっくり少しずつすべての貝が移動していて、すごくかわいくて、ちょっとキモくて、怖かった。
貝は私にとって、虫以上・動物以下のような距離感。(生物学的にもそうなのかな?つまり「個じゃなく全体で生存戦略を持っていそう」レベルが微生物>虫>貝>動物>人間。)


何より「自分の中を風が通る音」という表現はとても良かったし、共感した。
マルセルは貝だから、窓辺で佇むと物理的に「モォー」と音が鳴り、世界とのつながりを楽しんでいるんだけど、
それは私が創作活動をしているときや、していないときでもごく普通のインプットとアウトプットの瞬間を、抽象化した言葉みたいだった。


また「パーティーで一番落ち着くのは隣の部屋でみんなの声を聴いているとき」とも言っていて、ワイワイガヤガヤは楽しいけど疲れちゃうマルセルの孤独をそっと肯定しつつ否定しないところに制作者の人間性が見えた。


帰ってから調べるとこのキャラクターの初出自体は12年前で、監督がYouTubeに投稿したショート動画がオリジナルらしい。
(貝に生活の悲喜こもごもを語らせ、インタビュー取材するコンセプトはアードマンの「快適な生活」に似ている。)それを元に映画化することになった。

映画内ではマルセルがTikTok的なSNSでネットミーム的に流行ったかのように描かれていたけど、現実ではそのようなリアクションは見つけられなかった。もしそうだったなら「パペットスンスン」みたいな感じかな?

架空の存在をネット民みんなで本当にいるものとして作り出す構図は現実における「リリィシュシュのすべて」BBSみたいな感じか
(私も架空のお店のInstagramをひっそりやっていて、それを実際の店舗として具現化する企画を今度やる。違うのはフォロワーが10人もいないってこと笑)


ところでclipしていたこの映画をFilmarksが本日から上映開始って通知くれたおかげで、突発的な機動性を発揮して初日初回で見てきました。こんなときは首都圏に住んでいるありがたみを最大限享受するなあー(200席中5人くらいしかいなかったけど…もったいない)

Filmarksは「今観に行ける映画」機能なども始まっていて、仕事終わりに映画館に立ち寄ることを促進できそうな、映画人生を変え得るデザインだと思いました!
三畳

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