荒野の狼

ウクライナ・オン・ファイヤーの荒野の狼のレビュー・感想・評価

4.0
「ウクライナ・オン・ファイヤー』(Ukraine on Fire)はイゴール・ロパトノク監督、製作総指揮のオリバー・ストーンによる2016年の1時間36分のドキュメンタリー映画。 ウクライナの現在の政治的状況を理解する上で、本作のようにウクライナ現代史から紹介しているドキュメンタリーは少ないので貴重。オリバーストーンが監督したプーチンへのインタビューのTV用ドキュメンタリー「オリバー・ストーン オン プーチン(全4回、4時間の作品)」と合わせて鑑賞したい作品だが、同作でもウクライナの政治的背景が触れらていたが、本作では、歴史的に第二次世界大戦以前から紹介されているので両作品は補いあう内容といってよい。
本作の前半は、第二次世界大戦の前にウクライナの国粋主義者がナチに協力し、ユダヤ人殺害に関与したこと、その中心人物が、戦後もCIAを中心とするアメリカの保護を得て戦争犯罪から逃れたこと、国粋主義者が現在でも勢力を保持していることを様々な記録から紹介。また、ウクライナの西と東は政治的に支持がわかれており、東は親ロシア系であることが投票率から示される。
さらに2014年のウクライナ騒乱までの政治的経緯、とくにアメリカの関与、ネオナチの関与が示され、最終版では情報操作の恐ろしさ、アメリカが戦略として、長年、情報操作に長けており、他国の政治に大きく関係してきたことが示される。一例として、親米反ロシアの元ジョージア大統領ミヘイル・サアカシュヴィリの一連の行動とウクライナの受け入れ(サアカシュヴィリはオデッサ州知事に就任)の奇異さなどが紹介される。
アメリカのマスコミの報道の仕方についても、事実を伝えるのではなく、受けの良いニュースを伝えることを批判している。本作ではクリミア危機の折のアメリカでの報道の在り方も非難しており、アメリカでは「クリミアでの投票は不正に違いない」という前提のもとにTVニュースが流されていたが、本作ではロシアへの併合が決まった時にクリミアでの祝賀の映像が示される。クリミア危機の当時、私はアメリカに在住していたが、報道の実態は、本作の通りであり、受け手としては、報道された内容がそのまま真実であると疑ったことは、本作を見るまでなかった。
本作で語られていることの真実性に関しては、多方面の情報を総合して、ファクトチェックを慎重にする必要がある。たとえば2014年のマレーシア航空17便撃墜事件に関しては、いまだに真相に関しては諸説ある。また、本作では、反ロシア派の人物が暴行・殺害された事件を複数取り上げており、事件の真相は、反ロシア派側が反ロシア運動を煽るために行った可能性があるとしている。歴史的事実としては、これらの事件が反ロシア側によるものか、親ロシア側によるものか、確証がないものが多いので、本作の主張は一つの可能性としてとらえる必要がある。
なお、本作は、現在はYouTubeで日本語あるいは英語の字幕版が無料で視聴できる。
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