荒野の狼

チャーリー・ウィルソンズ・ウォーの荒野の狼のレビュー・感想・評価

3.0
2007年の100分のアメリカ映画でアフガニスタン紛争(1978-1989年)にアメリカがイスラム武装勢力ムジャヒディンに武器提供をした米史上最大の秘密作戦(サイクロン作戦)の経緯を描く。作戦に要する資金が、議会も大統領も関与せず、テキサスの極右で反共の富豪ジョアン・ヘリング(演、ジュリア・ロバーツ)の意向により、無名だが政治家に貸しの多い下院議員チャーリー・ウィルソン(トム・ハンクス)とアフガニスタン担当のCIAのグスト・アヴラコトス(演、フィリップ・シーモア・ホフマン)の二人によってアメリカ予算より出資される。
映画ではハンクスとロバーツは基本的に美化されているので、本作をランボーIIIのようにプロバガンダ映画的であると非難する論評はあるが、描かれている内容を冷静に見ると、アメリカの主要な外交・戦争政策が、数人の富豪・議員・CIAによって決定されて、他国の命運を決めてしまうことに恐ろしさを感じさせるものにはなっている。
メイキングでは主演のジュリア・ロバーツらが肯定的に、こんなに少ない人物が世界を動かした実話であると語っているが、ごく少数の人間によってアメリカの巨額な国家予算が動かされ世界政治・戦争が強く影響が及ぼされるのを見ると、実話だけに恐怖を感じる。ロバーツの証言は、まさにこの作戦がアメリカの国民のまったく知らないところで行われ、多くの国民がいまだにその事実を知らないということを裏付けている。また、軍事介入のみを行って、(教育施設の復興などの)戦後処理をしないと、思わぬしっぺ返しをくらいかねないというメッセージを禅僧の「塞翁が馬」の故事を使って語られている。
へリングは、ウィルソンと性的関係を結ぶことでウィルソンを動かし、アフガニスタン難民のいるパキスタンのハク大統領(1977年にクーデターで政権を奪取しブットーを処刑)を作戦に協力させるが、これには敵対関係にあるイスラエルとエジプト、サウジアラビアらも色仕掛けも含めて参加させていく。ラスト5分で、本作戦が将来的に、不幸をもたらす可能性に言及され、その後に起こった米国とアフガニスタンの戦争の歴史を知る視聴者にとっては、単なるウィルソンを讃えるプロバガンダ映画となっておらず、一応の納得はできる。実際、本作の脚本の初稿では、9/11が描かれ、将来的ビジョンのない作戦の結果が、悲劇に結び付いたことを示すものであった。ところが、へリングが訴訟を起こすと脅しをかけたことにより脚本は変更されたのだが、このため映画の当初の主旨が中途半端なものになってしまった。
ちなみに本作ではウィルソンのコカイン使用や、アルコール多飲、オフィスに露出の多い複数の美人秘書(「チャーリーズエンジェル」と呼ばれた)らも描かれ、ウィルソンがどのような人物であったかも描かれている。ウィルソンのサポートにまわったドク・ロング議員はネッド・ビーティ(「ネットワーク」「Highway to Haeven」)が演じている。
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