KnightsofOdessa

Boy from Heaven(英題)のKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

Boy from Heaven(英題)(2022年製作の映画)
4.0
["国家とアル=アズハルは対立してはならない"] 80点

傑作。2022年カンヌ映画祭コンペ部門選出作品。北米上映時の題名は『Cairo Conspiracy』らしい。アル=アズハルはファーティマ朝によって970年に創設された世界最古の教育機関の一つである。1924年にカリフ制が廃止されてからは、アル=アズハル大学の総長がスンニ派の最高権威とされている。何世紀もの間、エジプトの支配者はアル=アズハル大学を支配しようとしてきたが、今のところ成功していないらしい。主人公のアダムは漁師の息子だが、アル=アズハル大学への奨学金を手にしてカイロへ向かった。ここでの授業は屋外の広場で導師を囲んで座り、導師の言葉を聞くというもの。寮生活も始まるが、狭い部屋に三段ベッドが4つほど押し込まれているという過密すぎる生活も垣間見える。そんな折、偉大な総長が演説中に倒れて帰らぬ人となり、次期総長の席を巡った血みどろの戦いが幕を開ける。軍部は大統領と思想が近いベブラビ導師を後任に推すが、学内で支持率が高いのは盲目の導師であり、ムスリム同胞団系の導師も固い票を持っていた。そこで軍部は、どの集団にも属していない新入生としてアダムをスパイにして学内政治に介入しようとし、彼と彼の飼い主であるイブラヒム大佐の間で様々なバトルが展開される。一方で、先任のスパイだったジズは、アダムをスカウトした直後に広場で殺されており、誰が彼を殺したのかでもう一つのミステリーが立ち上がる。

何者でもなかった青年を中心に国家を巻き込んだ陰謀が展開され、悪運が強いのか彼は常にオヤジたちに翻弄され前線を渡り歩きながら、既の所で交わして生き延びていく。髭面の男しかいないので人物判別に苦労するのと、そこまで映像にする必要性を感じないという問題点はあるのだが、刻々と移り変わる前線を追っていくスピード感は素晴らしいと思う。登場人物の背景を簡素化しながらも行動理念の底にある感情が見える演出も上手い。よくぞコンペに選出してくれた。私はこういう作品を観たいのだ。
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