みりお

あちらにいる鬼のみりおのネタバレレビュー・内容・結末

あちらにいる鬼(2022年製作の映画)
2.5

このレビューはネタバレを含みます

直木賞作家・井上荒野が、父・井上光晴と母、そして父と不倫関係にあった瀬戸内寂聴をモデルに創作した同名小説を映画化した作品。

役者陣の演技は、本当に素晴らしい。
愛憎がこれでもかと伝わってくるし、3人の言葉にできないような、ヒリヒリするような関係性が伝わってくる。
でもどうしても私には、みはるの生き方も、白木の生き方も理解できない。
どうしても合わなかった。
本作が心に響いた方は、どうかこのレビュー読まないでほしい…

たしかに2人の間には、なにか強い絆があったのかもしれない。
でも互いに生涯を共にする相手がいるのに、彼等の気持ちを踏みにじり、一緒になれない自分達をさも悲劇の主人公のように思い込んでいることも、そしてそれを時間の経過と共に神話化して描くことも理解できない。
どうしてみはると白木の関係性が、美しいストーリーのように映像化されるんだろう。
笙子がどんな気持ちで家を守り、どんな気持ちで白木の帰りを待ち、そしてどんな気持ちでみはるの訪問を受け入れたのかを考えると、心が掻きむしられる。

その証拠に、笙子は白木の意識がなくなって、意思の疎通が図れなくなってからみはるを呼んでいる。
そして白木が旅立ったあと、白木の前以外では互いに微笑み合うこともしない。
同じように愛した人を喪った2人で、唯一気持ちを分かち合える2人のはずなのに、白木の前でだけ虚勢を張るように微笑み合い、喪失後はそれぞれ一人で泣きながら噛み締める。
当たり前だ。同じ男を愛してしまい、どちらも唯一の女になろうとして、なれなかった2人。
家を手に入れた女と、心を手に入れた女…でも反対から見れば、家を手に入れられなかった女と、心を手に入れられなかった女。
どちらも互いから見れば“鬼"だ。

でもどちらが"悪"かと言ったら、結婚という契約を侵し、妻の存在を嘲笑うように不倫し、そしていざ自分が浮気されたら当たり前のようになじる、みはるという女だ。
欲は人生につきまとうもの。
でもその欲を理性で乗り越えるのが、人という存在。
欲を自身で断ち切れず、出家という形に頼り、それでも俗世への縁を断ち切れず、白木の新居を訪問したみはるは、決して美しく描かれるべきではない。
瀬戸内寂聴は素晴らしい人だったと聴くから、様々な反論を承知で言う。
不倫相手の娘に、こんな小説を書かせてしまうみはるという女が、私は虫唾が走るほど嫌いだ。

ここまで観る人を惹き込み、怒りを覚えさせる時点で、本作は素晴らしい作品なんだろう。
心からそれは認める、素晴らしかった。
ただ好きかと言われたら好きではないし、人に薦めるかと聴かれたら薦めない。
この感想が子供じみていることもわかってるし、「青いね〜」と言われるかもしれない。
ただそんな酸いも甘いも味わい尽くしたような意見を言われたとしても、真理は一つだ。
白木とみはるの関係は、あまりに多くのものを壊して、傷つけ過ぎている。


【ストーリー】

人気作家の長内みはる(寺島しのぶ)は、講演旅行先で戦後派の作家・白木篤郎(豊川悦司)と出会い、関係を持つ。
一方篤郎の妻・笙子(広末涼子)は夫の奔放な女性関係を知りつつも、夫婦関係を続けていた。
しかし、互いに作家を生業する篤郎とみはるは、肉体関係だけでなく“書くこと”でも深く繋がっていく。
みりお

みりお