耶馬英彦

唄う六人の女の耶馬英彦のレビュー・感想・評価

唄う六人の女(2023年製作の映画)
3.5
 女たちが森の生き物の代表ということはすぐにわかるが、森の生き物は他者に何も強制しないし、あんなに暴力を振るわないと思う。

 本作品が成り立つのは、主人公萱島森一郎の果てしない寛容さがあってこそである。聖書には「敵を愛し、迫害する者のために祈れ」と記されているが、本当にそんなことができる人がいるとは考えられなかった。
 萱島は、人類はいつの日か風みたいな存在になるのかもしれないと言う。繁栄した生物の末路は常に絶滅だ。人類も将来は必ず絶滅するのだろうが、だからといって自然環境を壊していいという訳ではない。父親の自然愛に惹きつけられ、宇和島のエゴイズムに反発するように、萱島は数日のうちにグローバリストになっていく。

 随分と強引な展開だし、寛容にもほどがあるが、そうでなければ物語が成り立たない。これほど主人公におんぶにだっこの作品も珍しい。しかし竹野内豊は大したものだ。海のように広い精神性を見事に演じきった。
 萱島のグローバリズムに対し、エゴイズムの塊みたいな宇和島を演じたのが山田孝之で、こちらも熱演だった。こういう典型を演じるのはお手の物かもしれないが、根っからの悪人にしか見えないところが凄い。

 弁護士の話が急に出てきたり、彼女がいきなり殴りかかってきたりと、下地作りや説明に欠けているシーンがある。女たちの暴力性もリアリティが乏しい。もっと大人しくて色気に満ちた女たちであれば、声を上げたくても上げられない、受け身一方の地球環境や、タイトルの「唄う」がよく理解できただろう。竹野内豊と山田孝之の演技が見事だっただけに、ちょっと惜しい。
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