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帰れない山のピポサルのレビュー・感想・評価

帰れない山(2022年製作の映画)
4.4
原作が純文学と聞くと少し遠慮してしまいがちだけど雄大な山岳風景と対するミニマルなふたりの仕草や表情で全く飽きずに観ていられる。マジで4時間くらいやってくれ。劇伴も決して主役にならず、うまく物語を引き立てている。
人生について考えさせられるというけれど、ピエトロもブルーノも両極端な生き方なのでさほど自分ゴト化せず観ていた。いや、両極端と言ったけど人によってはこれが人生なわけで、何が極端で何が平凡なのかわからなくなった。この映画には明確な主張はなく観客が自由に感じ取ればそれでいいよみたいなスタンスだと思うのであんまり深く考えないことにする。

「都会の人が"自然"と言う」「ここにあるのは山や木や川だ」というブルーノの指摘にハッとさせられた。たしかに自分も無意識のうちに区別していたが、そこで暮らす人たちにとってはただの生活環境でしかない。高地放牧をしていた大人も山々にわざわざ名前なんてつけないとトリノからやってきたピエトロの父に言っていた。特別なものなんかではないから、だから1.33:1という狭い画角にあえてしたのかもしれない。観ている側からするとワイドな画面でもっと景色を見せてくれよと思うけど、正方形に近いアスペクト比によって人間同士の血の通った関係が強調される気がする。

で、『イントゥ・ザ・ワイルド』よろしく我々が自然と呼んでいるものは人間の意思や都合なんて全く顧みず時に猛威を振るう。心の準備はできていたけどまあ悲しいものは悲しい。世界の中心にある山とそれを囲む8つの山、という古代インドの世界観はおもしろい。友情だけではなく父との関係であったり、現在と過去という時間軸であったり、帰れない山の解釈がいろいろできておもしろいなと思った。
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