あおは

カラオケ行こ!のあおはのネタバレレビュー・内容・結末

カラオケ行こ!(2024年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

全体的にはギャップ盛りだくさんのお話だなと思った。緊張と緩和で笑いが生まれるように、そのギャップがユーモアになっていて、クスッと笑えるところが多かった。ユーモアは観客に押しつけるではなく、さり気なく流して拾わせる感じで、少し上からだけれどセンスがいいなと思った。
優しくてどこかチャーミングなヤクザに、成長期で悩む毒舌な中学生という設定だけでおもしろい予感がするのだけれど、それ故にやりすぎた方向にいっていたら観ていられないとずっと危惧していた。
鑑賞後の今は観てよかったと思っている。

雨で濡れたシャツに透けるタトゥーの背中のカットで幕を開ける。雨が強く降っているにもかかわらず傘を差していなくて、千鳥足のようにも見える。言わば、“何をしでかすか分からない追い詰められたヤクザ”で、そんな男が中学生の合唱大会の会場に入っていくから緊張感が煽られた。そのあとの「カラオケ行こ」で一気に緩み笑えるから巧いなと思った。

中学生がヤクザにカラオケに連れていかれたと思ったら、そのヤクザは終始優しい裏声で紅を歌い、聡実が渡した合唱のバイブルをしっかり読んでくるしで、ギャップのつけ方がおもしろい。中学生にアドバイスを求めて素直に聞き入れたり、なぜかすごく優しく対応してくれたり、映画だからギャップで奥歯の奥がジーンとするような照れくささが観ていてあったけれど、現実だったらその優しさが逆に恐ろしいだろうなと思った。
また、狂児を優しい人として描いて終わらせるのではなく、普通に人を鞄で殴るし指も回収しているしで、社会的には普通のヤクザなのに聡実に対してはまったく怒らず優しいという描き方がされていたから狂児という人物が魅力的に映るのだろうなと感じた。

この作品は2人の関係以外にもユーモアをもって表現していたところがたくさんあり、息子に独特な傘をプレゼントすることにハマってる親父とかおもしろすぎて最高だった。愛とは鮭のカワを与えることというのも笑えた。また「映画をみる部」という最高の部活で、上映中はスマホ禁止というセリフを使って観客にさり気なく牽制してるのもクスッと笑えた。映画に『カサブランカ』出てきて嬉しかった。

思春期の複雑に絡み合う正直になれない感情や学校や家庭では大人になろうとするけれど社会の大人(ヤクザではあるけれど)の前ではまだ子どもであるという難しい立ち位置にいる中学生と優しいヤクザの絡みが絶妙におもしろく、そのギャップで楽しめた。
最後に狂児が去ったのも聡実の健全な成長を考えての彼なりの優しさなのかなと思った。そのあと電話をかけてはいたけれど。
ストーリーラインは普通。何か大きなものが心のなかで湧き起こるわけではないけれど、これは映画としてとても楽しめる。

北村一輝かっけえなあ。
あおは

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