緋里阿純

イコライザー THE FINALの緋里阿純のネタバレレビュー・内容・結末

イコライザー THE FINAL(2023年製作の映画)
3.6

このレビューはネタバレを含みます

デンゼル・ワシントン主演、アントワーン・フークア監督のタッグによるアクションシリーズの3作目にして完結編(少なくとも、邦題的には)。普段、続編の話に首を縦に振らないというデンゼルが、唯一シリーズ化に付き合った作品。

第1作目は、愛する奥さんに先立たれた事でDIA(国防情報局)を引退し、殺しの道から足を洗い、ホームセンターで働くマッコールが、とある少女との出会いから影の私刑執行人として覚醒し、理不尽な悪を成敗する事で人々を救う道を見出すヒーローの誕生譚。

第2作目は、DIA時代からの古い友人を、同じくDIA時代の元同僚達に殺された事で、かつての同僚達と対決する事になる殺しのプロ同士による一大決戦。また、マッコールという人間によりフォーカスを当て、彼の人生がより鮮明さを増した。

そして本作は、そうして私刑執行人として活動する中で、自らの死や今までの行いに疑問を持ちながらも、それでも自分の役割に向き合い、自らの安息の地と定めたイタリアの港町を守る為、再び立ち上がるというもの。
負傷した傷を癒し、強大な敵に立ち向かうマッコールの姿は、何処かジョン・フランケンハイマー監督の『フレンチ・コネクション2』を彷彿とさせる。

個人的には、第1作の雰囲気にガツンとやられた身なので、それを劇場のスクリーンで鑑賞しなかった事を酷く後悔したほどだ。だからこそ、第2作の時は「今度こそ逃すものか!」と浮き足立って劇場に足を運んだし、今作もしっかり見届けねばと足を運んできた。
本シリーズの第1作目が公開された2014年は、奇しくもキアヌ・リーヴス主演による『ジョン・ウィック』(日本公開は2015年)も公開され、“舐めてたオヤジが、実は最強の人間でした”というコンセプトで、その後人気シリーズとなる2作品が産声を上げた年だ。
あちらは回を増すごとに殺傷方法やアクション、死者数を更新してインフレ化させていく中で、今シリーズは真逆の道を進んだと言える。回を増すごとに、上映時間は短縮され、アクションは鳴りをひそめた印象がある。

主演のデンゼル・ワシントンは現在68歳、第1作の時点で還暦だったという事を考えると、無理もないとは思う。しかし、本シリーズの第1作にあった“ホームセンターにあるものを利用し、応用して敵を倒す”というオリジナリティが、2作目以降完全に消え失せてしまったのは勿体無いとしか言いようがない。
元がドラマシリーズ且つ私自身がそちらを未履修な為、ドラマシリーズ時代のファンにとっては、本シリーズはリメイクとして至極真っ当なものなのかもしれない。だが、武器を現地調達し、地理的に相手より優位に立って戦うというのは、どんな舞台でも活きる最高の設定であったと思う。特に今作の舞台は、イタリアの港町。隠れ場所が豊富そうな入り組んだ道、山の中腹には教会まであるという絶好のロケーションだ。だからこそ、クライマックスのマフィアとの決戦では、あの街に居場所を見つけたマッコールが、それを最大限に活用し、敵を誘き寄せ、孤立させては一人ずつ着実に葬っていくという様を期待したのだが…。

ホラー映画を彷彿とさせる闇夜の館襲撃、一人また一人と暗闇に消えていくマフィアの姿を見せるのは面白くはある。デンゼルの年齢的なハンデを上手くカモフラージュさせる演出としても理解出来る。しかし、あれだけ前半でフラストレーションを募らせた割には、些か淡白でもっと爆発力が欲しかったし、同様の事は、先述した要素と組み合わせても、寧ろその方がより効果的に演出出来たはずだ。また、街の風景の美しさを度々見せてくれるのは、一見すると華やかで豪華に見えるのだが、本作は前2作より余程予算が少なかったのだろうか、それ頼みで画を持たせた印象もある。それは、アクションシーンの少なさがそう感じさせるのかもしれないが。

そんな本作で最も好感が持てたのは、音楽の使い方。盛り上げてほしい瞬間に、カッコよく曲が掛かって盛り上がるのは、やはりテンションが上がる。特に、タイトルカットの瞬間が絶妙だった。
また、ヒロインのエマが、前作で命を落としたスーザンの娘であると分かるラストには、思わずホッコリさせられた。ただ、マッコールの推理に頼りきりではなく、もう少し自身の能力での活躍を描いてほしくはあったが。

長い戦いの中で、ようやくマッコールが笑って過ごせる居場所を見つけられたのは、ハッピーエンドとして好ましい。とはいえ、職業的な立場や、相手をする敵の素性等色々違いがあるとはいえ、『ジョン・ウィック』シリーズがあれほどまでに苛烈なアクションを描き切り、殺しに手を染めた者としての報いを受ける結末を迎えたのに対して、本作はあまりにも静かに、そして淡白に幕を閉じてしまったなと思う。どちらが優れているかとか比べるものではないのだろうが、日本ではほぼ同時期にそれぞれの完結編が立て続けに公開された以上、またその結末が対照的である以上、どうしても比較してしまうのは勘弁していただきたい。

最終的な結論としては、本当に大傑作である第1作目を劇場の大スクリーン、特にIMAXシアターで鑑賞しなかった事が悔やまれる…。
あと、この内容なら、いっそ更に短く90分程度で駆け抜けてくれていたなら、また評価も違ったかもしれない。
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