HicK

ストレンジ・ワールド/もうひとつの世界のHicKのレビュー・感想・評価

3.9
《面白いツイストと伝わりやすいメタファーが魅力的》

【不人気に反して】
自分は楽しかった。良い作品だと思う。「ポリコレ祭り」とか「現代テーマを盛り込みすぎたWokeな作品」という感想も多く目にするが、そのテーマが直接的に物語の欠陥になってる訳でも無かった。興行成績の悪さに関してはマーケティング不足やツイストがある今作の特性上、内容を宣伝しずらかった点もあるのかなと思う。あと、恒例のイメージソングが無いので宣伝時の強度に欠いたかも。

【高いワクワク感】
「インディ・ジョーンズ」やコミックをイメージした演出。「アントマン」の量子世界やアトラクション「センター・オブ・ジ・アース」のような世界観。乗り物等も含め、既視感はあるけど、美味しいところどりのワクワク感が高い。

加えて、「果汁100%グミ」みたいなクリチャーのキャラデザ 笑。意外とかわいく見えてくる。

【2つの大きなテーマ】
「多様な価値観の肯定」をテーマとして、"悟空、悟飯、悟天"(笑)の主役ファミリー三世代による価値観の違いを描く。(厳密には悟天の関係性では無いけど )。結構、普遍的な親子関係。

もう一つは「環境問題/SDGs」。主役3人がそれぞれ、周りの"生物や資源"に対する扱いや考え方が違うのだが、時代と共に変わる現実での価値観の変化にも通ずるものだった。そして、大掛かりなドンデン返し、そこに現れた分かりやすい・伝わりやすいメタファーで、王道メッセージを届けてくれたのが気持ちよかった。表現は、世界から賞賛をうけたアニメ「はたらく細胞」みたい。

【ただ、】
テーマの多さというよりも、キャラごとのストーリーや仲違い(特に終盤の探検内での揉め事など)のようなサブプロット的なものが詰め込みすぎな気がした。

あと、悟空の発言がよく考えると、とんでもない人間すぎ…。

【個性に意味を持たせるべきか】
今作は当たり前のように様々な個性が物語とは関係無く存在している。

「ゲイは葛藤があってこそ面白みがある」「なぜ犬の足を欠損させたのか。無意味でかわいそう」これは、とあるレビュー動画で見かけた発言。たしかにフィクションの中では、今作のように、目につきやすい個性が何も意味しない事に不自然さを感じるのも理解できる。

ただ、「少数派の個性を持つ者は、その個性に意味を持たせないと肯定されない」と考えてしまうととてもおかしいし、その点をフィクションにおいても脱しようとする今作のようなディズニーは好き。リアルでは倫理上分かりきった事なのに、フィクションになると違和感があるのは、単に私たちがまだ見慣れてないだけだろう。

一方、「黒人のアリエル」のように、元々白人(が演じてた役)だったものを"おさがり"で黒人に与えるのは納得できない。それこそマジョリティの傲慢。

【総括】
再度になるが、悪いポリコレで面白さを損なっている作品では無いような気がする。親しみが湧くキャラデザ、メインストーリーでは驚愕のツイスト、そして分かりやすいメタファーと王道メッセージ。とても楽しませてもらった。今作のラストを見て、いつか宇宙がより身近になった時、人類も同じような体験をするのかな?なんて良い余韻も残った作品だった。
HicK

HicK