blacknessfall

ガール・イン・ザ・ピクチャー:写真はその闇を語るのblacknessfallのレビュー・感想・評価

4.1
こんなあらゆるイヤミスやノワールを凌駕する絶望的で猟奇的で魂を圧迫されるような話が実話だなんて絶句するしかない。

轢き逃げされ瀕死の状態で救急搬送された若い女性が治療のかいなく亡くなった。
彼女の夫を名乗る年配の男は病院から姿を消した。
身分証から彼女の親に連絡すると「あの子は数年前に亡くなっています」と当惑した声が。偽名だったのか?彼女は誰なのか?そして何故、夫は立ち去ったのか?

彼女は偽名でストリップバーとして働いていた。夫と子供のマイケルをその稼ぎで養っていた。同僚の証言から彼女は常に体にアザがあり暴力を受けてたように見えた。夫は常に妻を監視しており、彼女に売春を強要していた。次々に浮かび上がる夫の異常性。そんな時、夫は子供のマイケルを学校から無理やり連れ出し校長を脅し拘束して一緒に連れ出す誘拐事件を起こす。マイケルは養子に出されていたから、完全な誘拐。
夫は逮捕されるがマイケルはそこに居らず行方不明。

夫の裁判と彼女の身辺調査から驚愕の真実が浮かび上がる。
ここから、ネタバレに入るから気になる方は本編を観てから読んでくれ。











ここまででも十分胸糞でいやな話なんだけど、これはまだ前半でしかない。
まず驚くのがこの二人は夫婦ではなく親子関係だったことが明らかになる。二人で偽名を使い公式に結婚していた。ニュースを見て彼女の同級生達がそのことを語る。1人の女友達が彼女の家に泊った時に父親は彼女達がいる部屋に拳銃を持って入り、彼女と友達を脅し、信じられないことに友達の目の前で彼女をレイプする。友達は怖さと彼女に口止めされたことから今までそれを胸にしまっていた。彼女は性的虐待を受けていた。成績優秀で奨学金で大学進学も決まっていたが、妊娠を理由に進学を諦め、父親と引っ越して行った。
彼女は3度妊娠し1人を中絶、1人を養子に、そしてマイケルを誠心誠意育てていた。子供に愛情を注ぐことで心の均衡を保っていたのだろう。鬼畜のような父の支配に耐えるために。
父の過去は生まれながらの犯罪者としか言えないものだった。性犯罪、強盗と犯罪を犯し誰かを傷つけないと死んでしまうかのような病的な経歴。FBIの地道な捜査で状況証拠を積み上げ行方不明のままマイケルの殺害で有罪にする。父は懲役52年の懲役を受け服役。マイケルは行方不明のまま。
しかし、何よりこの裁判での一番衝撃的な展開は父と娘である彼女には遺伝的な繋がりはないと判明したことだった!つまり二人は親子でもなかった!
では、彼女はどこの誰なのか?再びこの疑問が浮上する。

そして父が容疑者になったもう1つの殺人事件、娘の同僚だったストリッパー殺害で有罪になり父は死刑判決を受ける。
その間も娘の身元調査とマイケルの遺体探索は続く。決して口を割らなかった父がマイケル殺害を認め遺体を遺棄した場所を自白するも遺体は出なかった。
さらに頑なに返答を拒んでいた娘の身元を暴露する。それは昔、偽名で付き合っていた女性の娘、幼い三姉妹のうちの1人を誘拐したのだと。
娘として育て、欲望のまま犯し、売春をさせ金銭を搾取し続けた。
この事実が明らかになるまで長期に渡る彼女を悼む何人もの人の誠実で善意に満ちた行動があった。引退したFB捜査官、ルポルタージュ作家、彼女の同級生達、養子に出され成長した彼女の娘、皆が彼女の居た場所、本当の名前を捜すために出来ることをやれることを全てやった。彼女のために。
最後にその人達が偽名のままだった彼女の墓石を本名を刻んだ墓石に変え、その墓石の前で一同に集い彼女の冥福を祈る。本作で唯一救いのある場面で、痛ましさの中に癒しと感動がある。
しかし、これは今そこに存在し生きる人達の細やかな救い。狡猾で我欲のままに生きる病的な犯罪気質の男に蹂躙され傷ついた彼女の魂には救いになったのだろうか?そうであって欲しい。
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