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ザ・スーパーミッションのdm10foreverのレビュー・感想・評価

ザ・スーパーミッション(2021年製作の映画)
3.6
【聖域】

自分がまだ大学生だったころ、「BLUE HOUSE」という雑貨屋でバイトをしていた。
主に北海道を拠点にした雑貨屋で、「アパレル」やら「インテリア」やら「和食器」やら「エスニック家具」なんかも売っていた。

で、長いことバイトしていたってこともあって、バックヤード(検品)だけじゃなく、社員さんと一緒に各部門の担当を任されたりもしていた。

因みに僕は「インテリアコーナー」と「アパレルコーナー」の掛け持ち。
っていうか本当は「インテ」のみだったのに、憧れていた先輩が「アパ」担当だったので、お手伝いしたくて勝手に自分の仕事を増やして両方やってた(笑)。
店長も「しょうがね~な~」って言いながらOKしてくれて。

で、その先輩がね、とにかく服を畳むのが上手だった。
ゴワゴワのセーターだったり、テロンテロンのシャツだったり。
一枚一枚を手際よく畳んであっという間にグチャグチャだった棚がきれいに元通り。
時には20時の閉店後、2時間くらいかけて全ての棚をきれいに畳んでいた。

僕は一応「インテ」担当が本職なので、在庫チェックとかもするんだけど、正直出るのは小物くらいなので、閉店後のチェックにもそれ程時間がかからない。
なので、チャチャッとインテの仕事を済ませて、猛ダッシュで「アパ」コーナーまで走っていって「自分も手伝うっす!」と後輩(わんこ)モードで先輩の隣でお喋りしながらラルフローレンのセーターやEDWINのジーンズを畳んでいたのが懐かしい思い出・・・。

でね、商品に限らず、お店側の気持ちって少なからず「商品を綺麗に見てほしい」って思ってるんですよ。だから、畳み方や並べ方にも自然と力が入ってくるし、慣れてくれば個性も出る。
「あ~、ここ担当したのって○○さんでしょ?性格出るね~さりげなく前面に柄物のTシャツ並べるの好きだもんね~」みたいな。

でもそれって決して変なことでも悪いことでもなくて、言ってみれば「店員プライド」。
たぶんお客さんは理解なんかしてくれないだろうけど「この売り場を美しく作り上げることが私の使命でありプライド」っていう・・・ね。

だから、この店員さんの気持ちってちょっとわかる。
(汚すなよ!)っていう。
ただ、不思議なもんで、何度グチャグチャにされても「明日のため」に何事もなかったようにきれいにすること自体は嫌いじゃない。

今作に出て来る店員さん(筒井真理子)は「対人恐怖症」。
心に思っていても中々声に出して伝えることができない。
じゃあ、彼女はお客さんに対してどう思っていたか?

確かに傍若無人に振る舞う若者たち(さすがにあそこまでいったら営業妨害で警察呼ばれるレベルだけどね)はやりすぎだけど、あからさまに彼らに対して『私の聖域を汚すな!』っていう気持ちだけだったのかな・・・。
むしろ彼女はストイックに「商品」のことだけしか考えていないわけでもないように感じたんですね。

本当はお客さんとコミュニケーションを取りたいだけなんだと思う。
だからこそ、お客さんを「観察」する。
一歩踏み出してコミュニケーションをとってみれば、お客さんは「鬼」でも「化け物」でもなく、普通の「お客さん」だったんだよね。

彼女にとってのミッション。
それは自分もお客さんも含めて「お店」として回っているということの再発見だったのかもしれない。

やや予定調和的なハッピーエンドではあったけど、ホンワカしていて嫌な気がしない。
筒井真理子さんの独特の存在感も相まって、ラストの一体感は結構よかったと思います。

外国人のお客さんは言葉が通じないからこそ、言葉に頼らず接することができるのかもしれない。
殻に閉じこもってばかりいても、こちらの思いは伝わらないんだよという優しいメッセージだと思いました。

*2年以上前に観たときはまだフィルマにタイトルが上がっていなかったので、個人的にレビューをしたためていただけでしたが、気がつくとタイトルもあがっていたので今回UPします。
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