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家政婦と少年のdm10foreverのレビュー・感想・評価

家政婦と少年(2020年製作の映画)
3.7
【静の中にある動】

最近、仕事のバランスがおかしくってね・・・。
目の前まで「サノスの大軍団」かの如き大量の仕事が迫ってきてはいるんだけど、現段階ではまだ手が出せないっていう、気持ちだけが焦ってしまうアイドリング状態がずっと続いていて、それならいっそのこと、一思いに(ドサッ!)と机の上に「これでも食らいやがれ!」って仕事の山を置いてくれた方がなんぼも楽。ひたすらやればいいだけだから。
でも「大量に仕事がある」ってわかっているのに「まだ手が出せない」っていう悶々とした状況が続くと、やっぱり仕事外(プライベート)での精神状態にも少なからず影響しちゃいますよね・・・。

ってな感じで、劇場まで行ってしまえば完全に没入できるからいいとしても、家に帰るとやっぱり色んなことを考えてしまったりして、落ち着いてサブスクを観ようという気にもなかなかなれず・・・。
まぁそんな時に無理して映画を観る必要もないんだけどね(笑)

そんなこんなで、あまり気負わずにサラッと観れる短編辺りでリフレッシュしましょうかね・・・ってところで久々のブリリアちゃん。
もう、俺の事忘れてたでしょ(笑)

ということで、真っ先に上がってきたこちらをチョイス。
「家政婦と少年」・・・・・いかん、いかん。
タイトルを読んだ時点で、勝手にインモラルな内容しか想像できない自分(-_-;)
決してそんな卑猥なお話ではございません。あしからず。

~あらすじ~
1日の終わりにやってくる別れが、家政婦と雇い主の幼い息子に刻々と近づいてくる…。タイに存在する文化と階級社会に逆らう関係を描く人間ドラマ(Filmarksあらすじより)

一般的に「タイ」を舞台に描く時って「カオス」「微笑み」「おカマちゃん」のどれかが入っているのが様式美のようなものでもあったんだけど、今回はそのどれもがない。
そう言った意味では「らしくない」タイプの作品とも言えるかもしれない。

ただ、この作品の面白いところは「あえて映さない画面の向こう側」の存在にあると思ったんですね。
この作品では、先に触れたような「カオスな街並み」や「市街の喧騒」などは最後まで出てこず「とあるお屋敷」の中だけで物語が進んでいきます。

それは僕たちが今まで「タイ映画」にイメージしていたものとはまるで違うモダンでハイソな生活環境。
そしてこの物語は「このお屋敷の中」であることに意味があったんですね。

物語の主人公は、この家の一人息子のポンドと家政婦のトー。
あくまでも二人の関係性は「雇用主(の息子)と使用人」でしかないんだけど、両親ともに忙しくしているポンドにとってはトーがお母さん代わりでもあった。
宿題を観てくれたり、お風呂で体を洗ってくれたり、美味しいご飯を作ってくれたり・・・。
しかし、体調を崩してしまった父親の介護のために、トー仕事を辞めて田舎へ帰ることとなってしまう・・。

そこに「ポンドの両親が非道な人たちで・・・」なんてこともないし「ポンドもトーに一緒についていく」みたいな大胆なドラマがあるわけでもない。
あくまでも「家政婦が自己都合で退職する」というだけの事実でしかないんですね。
この物語は、あえてそこには体温を持たせませんでした。

別に誰かの悪意があってトーが追い出されてしまうわけでもないし、トーがいなくなったところでポンドが虐待を受けるわけでもない。
つまり、これは裏を返せば「特別な話ではなく、タイでは普通にある話」という描き方なんですね。

でも、僕たちは普段「カオス」「喧騒」というイメージでタイを見ているので、もしかしたらこの物語の方が「特殊な関係性(物語性)」だと決め込んで観てしまっているのかもしれない。

そういった「喧騒」も「静寂」も関係なく、一人の人間同士が触れ合って、愛情を感じ、別れを惜しむ。
アスペクト比をスタンダードサイズ(4:3)にしたのも、そういった「ノスタルジックな関係性」や「人と人との体温の温かみ」を表現するために、あえて「人物」をクローズアップする意図があったんじゃないかな・・って感じました。
この物語が、全てお屋敷の中で描かれていたのも、どこか「ポンドとトーだけの間に流れる優しい時間」という表現にも感じて、さらにアスペクト比の設定とも相まって、美しくまとまっていたと思います。

あと、恐らく監督の作風だと思うんですが、画角や構図にも拘りを感じたのと同時に、いろんな場面で「人を撮る」のではなく「人が映る」という撮り方をするシーンがありました。
あくまでも「部屋」に構図を合わせた中で人物にカメラを向けるのではなく、カメラが映している画面の中で人物が動いているっていう撮り方なんですね。
これは、どこか「空間」を意識したような感じもあって、ポンドとトーの間だけに存在する特別な場所を第三者である観客がちょっとだけ覗いているかのような描き方にも感じました。
それこそ、以前観た「Mommy/マミー(グザヴィエ・ドラン監督)」っぽさも感じる演出だったかな。
嫌いじゃないです。

全体的に起伏が少なくて「静」の部類に入る作品ですが、ポンドとトーの間に流れていた優しい時間や、タイにおける格差社会というものが決して特別な状況ではないっていう「裏」の部分にも動きがあるのが見えて、なおかつそれを必要以上にキャラクターたちに背負わせることなく、うっすらとリアルな雰囲気すらも感じさせてくれたので、結構好きな作品でした。
あと、タイの映画なのに、「暑さ(熱さ)」を感じさせない映像も新鮮でよかった。
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