してぃぼ

そばかすのしてぃぼのレビュー・感想・評価

そばかす(2022年製作の映画)
4.0
この作品を周囲に少しだけおすすめする機会があった。自分の説明が悪かったんだろう。ある人が「そういう、恋って何だろう的な人いますよね」と言われた。その時に「ああ、こういうことなんだな。」と思った。

蘇畑が合コンでトムクルーズの「宇宙戦争」について語るシーン。ミニシアターに行く人種からすると結構あるんじゃないかな。本当に繋ぎの話として聞かれた趣味の話題で嬉しくなり、少しドライブをかけて語ったら、全く手応えのない反応やそればかりかスルーされた経験。

自分の友人、男女問わずで何人か全く恋愛ををしていない人達がいる。30になっても浮いた話がない。でも特に深入りはしない。アセクシャルなのかそれとも何となくする気にならないのか、面倒なのか、今の生活で満たされていてパートナーの必要性を感じないのか、とか本人にしか分からない感覚があるから。無理に恋愛しろと決めつける筋合いもないので敢えて何も触れないようにしている。そこで腹を割って話して本心を聞いてもいいが、アセクシャルの人はその存在自体が理解されないという悩みを抱えていたりとか、アセクシャルと自覚していなかったり、そこに該当しないとしても何となく自分にしか分からない感覚を伝える事に対しての抵抗感があるんじゃないか、とか思うとそんなストレスを無理に与える必要ないんじゃないかって。でもこの薄らとした見えない膜がマイノリティの生きづらさに繋がってるんじゃないかと思った。

自分は恋愛はするが、同棲も結婚もしたいと今は一切思わないし、子供にも興味がない。しかしマジョリティの世界ではそれらが良いこと、年齢を重ねる上ですべきこととされていて、そうでない人達は早くそちらに向かうようマジョリティのご好意で、一方的で押し付けがましい助言をしてくる。でも他人の感覚を軽はずみにジャッジする人たちってマイノリティの持つ感覚を本当に理解していないし、尊重をする気もない。だから母や妹につべこべ言われているシーンを観ていて、とても辛くなった。

「同じ人がどこかにいて、生きていればそれでいい」

ラストのこの言葉はとても好きだ。でも共感できる他者はできるだけそばにいて欲しいと思う。わがままなのだろうか。今の日本では、地球のどこかに居てほしいと願うことが限界なのかも。ただ全く自分のことを理解されない世界でしか生きていなかった彼女にとって一筋の光が差した瞬間だったから素敵なシーンだった。

作中で唯一「宇宙戦争」のトムクルーズの走り方の良さに共感してくれた彼。あの映画だけ目的が無く逃げているだけだから好きらしい。最後の蘇畑のダッシュ。自分がこれからどうなっていくか、目的なんて要らないってことなのか。それともようやく自分のことを少し分かってくれる人に出会えて前向きに走り出せるようになったってことなのか。何を表しているんだろう。でも一つだけ言えるのは、その感覚「何となく分かるかも」
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