映画ネズミ

初仕事の映画ネズミのレビュー・感想・評価

初仕事(2020年製作の映画)
3.7
向いている人:
①現在、お仕事をしている人
②挑戦的な作品が見たい人

 チネマットオンライン試写会で鑑賞しました。

 初仕事って、緊張しますよね。
 右も左も分からない状態で、上司から突然押し付けられる。蓋を開けてみたら、クセが強い仕事だったりして。

 ドギマギしながら仕事して、怒られて、嫌になって、のめり込んで。

 この作品を見ながら、自分の初仕事のことを思い出しました。

 人から何かを頼まれる仕事は、気がついたら依頼者より自分の方が入れ込むこともあります。
 でも、俯瞰して物を言うことは誰でもできるけど、自分よりもそれを真剣に考えてくれる人がいるだけで救われることもあるのかもしれません。

 依頼者・安斎と写真家の卵・山下の立場や感情が次第に逆転していくのが、大きな見所です。

 舞台となる家も、監督によると部屋ごとに別の場所で撮影したそうですが、見事な一体感と幻想的な雰囲気、そして安斎の心の空虚さを表すかのような寂しげな雰囲気が入り混じる、一種霊的な空間になっていました。

 途中出てくる、旅館のバイトの女性と安斎とのやり取り。かのアルフレッド・ヒッチコックの『めまい』を思い出しました。

 ある対象を、自分の望むようにしたいという願望。それは、安斎が当初から抱いており、山下も次第に抱いていく願望です。

 エゴだと分かっていながらも、倫理的に危ういとされる行為によって救われたいという思い。

 自分の仕事を全うするため、とことんまでこだわりたいという思い。

 馴染みのある感情の一歩先にある危うさを追体験させ、ともすると感情移入させてしまう力。

 その意味でも、本作は、『めまい』の精神を受け継ぐ、とても挑戦的な作品だと思いました。
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