すずき

スピリッツ・オブ・ジ・エアのすずきのレビュー・感想・評価

3.7
荒廃した世界の荒野の真ん中のポツンと一軒家。
そこには頭のおかしい兄妹が住んでいた。
ある日、外の世界からスミスと名乗る男が現れる。
彼は追われていて、北へと理想郷を求めて逃げているらしい。
だが、荒野の北は断崖絶壁の岩山で、とても人間には越えられそうにない。
空を翔ぶ事に取り憑かれ、飛行機実験の失敗で下半身不随となった兄フェリックスは、スミスに実験の協力を提案する。
飛行機を作って3人で岩山を飛び越えて北に行こう、とフェリックスは持ちかけるが、妹ベティはそれに反対し、スミスを追い出そうとする…

「クロウ/飛翔伝説」のアレックス・プロヤス監督が手掛けた、もう一つの「飛翔」の物語。
ストーリーは飛行機制作に情熱をかける2人の男と、それに反対し続ける女を描いただけの単純なもの。
舞台は人間の文明が崩壊した後の世界なのだろうか。
似たような舞台設定では「マッドマックス」を筆頭に、滅びに満ちた世界の中での、小さな希望や再生を描いた作品は多い。
この作品には宗教モチーフも多く、「飛翔」に色々とメタファーの意味も込められているのかもしれない。
そんな宗教的終末世界とストーリーのシンプルさが相まって、神話のような荘厳な雰囲気を感じた。

テーマだのメタファーだのを考えずとも、特異なビジュアルだけでも楽しめる所も良かった。
真っ青な空と、地平線広がる荒野。
そのド真ん中で、奇妙奇天烈なファッションの女がひとり、バイオリンを弾いているという最初のシーンから惹きつけられた。
劇中、文字が読めない主人公に対して「絵だけ見て感じろ!」と、飛行機について書かれた本を渡すシーンがあるけれど、この映画も同じかも。
正確な意味は分からなくても、美しい挿絵を眺めているだけでも楽しめる海外のグラフィック・ノベルを読んでいるような作品。

爽やかな別れを描いたラストシーンも個人的好みでエモい。