すずき

ZOOのすずきのレビュー・感想・評価

ZOO(1985年製作の映画)
3.9
動物園に勤める、オズワルドとオリヴァーの動物学者兄弟。
だがある日、2人の妻が乗っていた車に白鳥が激突した事で交通事故となり、帰らぬ人となってしまう。
2人は悲しみに暮れ、それ以降生物の「死」とその後に待つ「腐敗」に魅せられてしまう。
車を運転していた共通の友人、アルバは奇跡的に助かったが、片脚とお腹の子供を失ってしまう。
やがて彼女と兄弟は関係を持つようになるが、アルバの主治医も彼女に固執し…

紳士の国・イギリスが誇る変態紳士監督、ピーター・グリーナウェイ監督の作品。
登場人物の全キャラが狂ってているのだが、しかしどのキャラクターも自身の美学に基づいて行動し、その狂気と美しさの対比が際立つ。
この作品自体も監督の他の作品と同じように、グロテスクや下品な物と美しい物を同時に描き出している。
それは美しさの中にグロテスクを見出すのか、それとも汚物の中に美を見出しているのか。
シマウマは「黒地に白」か「白地に黒」か?という劇中の台詞は、この作品自体を体現しているように思う。

映画のストーリーは難解だけど、多分それ自体に意味合いは薄くて、全体に散りばめられたモチーフを探るような作品なんじやないかな。
そのモチーフは、言葉遊びのように連想され、作品全体に緻密に配置されている。
生と死・始まりと終わりが最初にあり、そこからAからZのアルファベットを連想する。
更にそこから26という数字を連想し、始まりと終わりを意味するその数字はそこかしこに登場する。

また、「腐敗とは対称性を失う事」と作品内で定義され、その「対称性の破れ」は死を意味するが、映画が終わり(死)に近づくにつれ、兄弟の対称性は強まっていく。

劇中にはフェルメールの絵画も重要なモチーフとして登場する。
この映画も謎多き絵画のように、描かれているモチーフの一つ一つを絵解きするように楽しむ作品。
ある意味、アート映画としては分かりやすい作りで、一部のゴリゴリのシネフィルには「アートかぶれ」と評される監督だけど、私はやっぱり好きだなー。


さて、ここからは私の解釈。
監督はそこまで考えてないだろうけど、批評や考察は監督の意図すら超えてよいものだ、とお婆ちゃんが言っていたので。

"A"ppleから始まった腐敗実験は、"Z"ooを追い出された2人の"o"で終わる。
"O"の文字は円環を表し、運命の車輪が巡り一周する様を意味するが、それが2つ並んでくっつけば"∞"、無限大となる。
メビウスの輪のように捻られ反転した運命は、やがて元の場所に戻り、永遠を繰り返す。
生物が活動をやめた時、生は反転し死となる。
肉体は腐敗し液体へと分解されるが、それは原初の海の姿に戻る事だ。
その小さな原初の海を糧に、再び生命が誕生し輪廻するのだろう…
…と、壮大なスケールを想像させられる作品でした。