すずき

サン・ラーのスペース・イズ・ザ・プレイスのすずきのレビュー・感想・評価

3.2
土星からの使者であり、太陽神の顕現である宇宙的黒人サン・ラー。
彼は宇宙最強の力である「音楽」で、地球という誤った惑星に囚われた黒人達を解放しに地球に降り立った。
しかし、それに待ったをかけるのは、彼と同じ宇宙的黒人の「監視者」。
サン・ラーと監視者はそれぞれ地球で行動しながら、サン・ラーが解放を完遂出来るのか、その運命をゲームに見立てて賭け勝負をする…

君はサン・ラーを知っているか?
いや、私もこの作品を知るまでは、酸辣湯しか知らなかったのだけど。
彼はフリースタイルのジャズアーティストだが、その音楽性と思想はあまりにもフリースタイル過ぎる。
なにせ彼は、自らを土星人や太陽神と称したコズミック黒人至上主義者。
その設定は生涯崩す事なく、膨大な量の宇宙的ジャズを発表し続けた。
この作品はそんなジャズ界の奇人サン・ラーのオリジンを描いた、彼の宇宙世界観および教義を解説した映画である。
ちなみに彼は太陽神ラーを名乗りエジプトチックな衣装を着ているが、古代エジプト人が黒人であるかは諸説ある…。

映画の内容は、サン・ラーが自らの教えを布教するが、ライバルの「監視者」がそれを邪魔する、というもの。
神と悪魔、仏と魔羅、アフラマズダとアーリマンのような、善vs悪の観念的な戦いを描いた古典的な神話の構図。
その戦いは、ここではない異空間で行われる、神々のゲーム(ルール不明)として描かれる。

だが、見ている内に監視者は悪ではないのでは?と感じるようになった。
映画劇中で直接サン・ラーに危害を及ぼすのはFBI(?)の白人で、彼らは監視者の手下ではない。
それどころか、監視者も彼らに手駒を邪魔され失点する場面も描かれる。
多分、監視者は「悪」ではなく、「混沌」の権化なのかな。
欲しい物は全て手に入れ、欲望のままに行動し、イタズラを好むような監視者の性格は、神話で言うところの「トリックスター」なのだろう。

ブッ飛んだカルトSFミュージカルのような本作はそのビジュアルも特異で楽しめた。
けれど、肝心の音楽シーンがイマイチだったのは大きなマイナス点。
序盤の荒ぶるピアノでの大破壊が音楽的にも映像スペクタクル的にもピークで、直接的に「音楽の力」を表現していた。
しかしそれ以降は、音楽は教義を語る為のツールとしか使われなくなったし、音楽性のオリジナリティはあれど、ちょっと地味だ。
映画クライマックスのライブコンサートも、歌というよりほとんど語り。
もう2〜30分ぐらいライブシーン追加して、「ボヘミアン・ラプソディ」ばりの歌唱や演奏パフォーマンスを見せて欲しかった。