氷雨水葵

Pearl パールの氷雨水葵のレビュー・感想・評価

Pearl パール(2022年製作の映画)
4.1
2023年76本目

笑顔が怖いメンヘラ娘だった!

◆あらすじ
ダンサーを志し、スターとしてショービズの世界に憧れるパール(ミア・ゴス)。

しかし、厳格な母と体が不自由な父のもと、貧乏な農場で育ったためか、愛に飢え少しずつ夢を腐らせてゆく。

これは、純粋で無垢なシリアルキラーが誕生するまでのお話―――。

◆感想
公開から1週間、やっと鑑賞できました!!『X エックス』は劇場で鑑賞済み。

観た感想としては「これはミア・ゴスのための映画」でした!演技力すごくないですか!?終盤にパールが1人で5分以上(もうちょい長いかも)語る長回しシーンがあるのですが、そのときのミア・ゴスの表情や雰囲気、セリフの言い方がとにかくすごい。夫ハワードへの思いの丈をひたすら言っているだけのシーンなのですが、思わず見入ってしまいました。

さてさて、本作の感想はほかにもありまして、まず「全然怖くない!」というのが正直なところ。所々グロはあるし不穏な空気が漂っていますが、ホラー的な怖さはまったくなく、むしろラストのパールの笑顔を見ると清々しさすら感じるほど。『ミッドサマー』や『ヘレディタリー/継承』のように「気持ちのやりどころがない」というトラウマ級ではなかったので、違う角度からA24の魅力を再発見できたように思えます。

本作の見どころは『X エックス』における老婆パールが、いかにして誕生したのかを描くところ。前作が18禁近かったのに比べると、そういうシーンはほぼなく、むしろ当時のテキサス州の趣を感じる演出の連続になっていました。1918年を舞台にしているだけあって、テロップのフォントや町の雰囲気、衣装、画面の色味など、視覚的に印象に残りました。めちゃくちゃ鮮やかなスラッシャー映画ですね。
前作が「ああいう内容」だったので構えてしまったのですが、個人的には本作のほうが好みかも。「なにか悪いことした?」「どうして急に冷たくなったの?」と、メンヘラになるパールには少しばかりイラっとしたものの、ミア・ゴスの活き活きとした演技に夢中になりました!スターになる夢を追う若かりし頃のパールが確かにそこにいる。そう思わせる演技に妙に惹きつけられました。「もっとも無垢なシリアルキラー」とはうまく言ったもので、ほんとうにその通り。
貧乏な農場暮らしで夫は出征中、父は病気、母は毒親など、パールがシリアルキラーになる理由としては十分だよなぁ…。序盤からずっと不穏で不安な空気が流れていたし、時々カットインするワニのセダちゃん(そもそもメスなのか?)にドキドキしっぱなし。パールがいつ’’殺る’’のかと楽しみになってしまう自分がいました。

言いようのない’’気味の悪さ’’は嫌いではないし、所々パールにつられて思わず笑顔になってしまうシーンもある。血液の量が少なくても、いや少ないからこそ物語に集中できるし、前日譚としては申し分ない出来だと思います。エンドロールでの笑顔がすごくよかったよパール!無邪気で、でも確かに残酷で、籠の中から一歩踏み出したパールはこんなにもスターなんだね。

個人的に「お?」と思ったのは、パールがオーディションを受けたシーン。舞台の床に貼ってある、通称バミリが「X」だったことかな(笑)これみよがしにカメラに映るし、苦笑してしまいました。

前日譚とはいえ、前作を観ていなくても楽しめると思います。パールの若い頃を知ってから老婆のキャッキャウフフを観るのも、また一興。

赤々としたポスタービジュアル素敵✨

ユナイテッドシネマにて
氷雨水葵

氷雨水葵