しちれゆ

美と殺戮のすべてのしちれゆのレビュー・感想・評価

美と殺戮のすべて(2022年製作の映画)
4.0
ナン・ゴールディンという人を知らなかった。1953年生まれ、主にLGBTサブカルチャーのムーブメントを切り取った写真家である彼女が米国のオピオイド危機を引き起こした製薬会社と創業者一族に真っ向から戦いを挑んだドキュメンタリーである。ドキュメンタリーながら映画製作時(2022年)のゴールディンを映し出すのと並行して彼女の人生の軌跡を本人の述懐に即して見せてくる。それが可能だったのは写真家ゴールディンがスライドの手法で自分と友人たちを被写体とした作品を発表していたことと彼女が本作制作時60代後半でまだまだ現役だったことが大きいと思う。自らもドラッグやゲイカルチャーの只中で生きてきたゴールディンを多くの″真っ当″な人は知らないだろう。スクリーンに映る若き日の奔放な彼女や恋人たち、エイズで逝った友人たち。そして現代、オピオイド系薬物のオーバードーズで死んでいく50万を超えるアメリカの人々。かつて救えなかった命の弔いをするかのようなゴールディンの熱き闘いを描いて稀有なドキュメンタリーだと思う。
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